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【本編完結・書籍化進行中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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慰問旅行〜エメンタール領へ〜 後編

翌日、私の体は乗馬後のように重かった。特に腰とお尻がである。

「これだから嫌なのよね、馬車の旅って…」と言って同室で寝ていたお母様も体を伸ばす。

成程馬車旅とは不慣れならば体が痛むものなのだと思い知った。


朝食後直ぐに私たちは男爵邸を後にする。

その後は男爵領の街中を通りまた街道へと抜ける。

二つ目の街というのか村を抜けた先で道は大きく二手に別れている。

南に向かう南海街道と私達が目指すエメンタール領へと伸びる北海街道です。

「ここは3つの領地の境界線でもあるんだよ」と教えてくれたのはカイン兄様です。

ここから先は北東貴族と呼ばれ私達エメンタール家を寄親とした貴族家の領地が続くのだそうです。


直轄地やリストン男爵領では街道は硬くならされていましたが、北街道に入り少したつと道はガタ付きが多く感じられるようになりました。

街道整備は街道を領内に持つ領主が保全する事が義務なのでこの地は道にお金をかけられない何かがあったのでしょう。

そんな疑問を持ちつつ揺られているとアレク兄様が「ジェッタ騎士伯領だな。2年連続で局地的な蝗害があったとサロンで聞いたな。しかし、この道はこたえるな…スピカ、クッションを増やそう」兄様はそういうと座席の下のスペースからクッションを引っ張り出すと私とお母様へ薦めました。緊急野営用の装備だそうです。その日の宿へと着く前に何軒かの貴族領地を経由したのですが、良い道、悪い道に大きな差がありとても驚きました。


後日談

この時のことを後にお父様へお話したところ、私がたまに領地に行く時にお尻を痛めてはいけないからと全ての北海街道の整備が見直され、3年かけて総石畳の街道が出来上がりました。金策に喘いで街道整備が出来ていなかった家々は泣いて喜んだそうです。そしてそれにより街道の馬車トラブルが減り荷物が運搬しやすくなった事でエメンタール領はさらに活気付き「流石はエメンタール伯!先見がおありだ。私財を打ってでも街道整備した事でその何倍も稼いじまうなんて普通は出来ない事だ!」などと巷で誉められるのですがそのきっかけはただの親バカである事は家族以外知るものはいないのでした。

閑話休題



3日目の昼前に私達はエメンタール領内へと足を踏み入れました。

「あの防風林を抜ければ、我らがエメンタール領よ。20分位で最初の街ビックベアーズへ着くとおもうわ」少し疲れた面持ちのお母様が教えてくださいます。街道沿いの街ビックベアーズでは領内の警備隊がお出迎えしてくれて、そこから領主館のあるキイワまで先導と護衛をしてくれました。

私がまず驚いたのは街の規模です。今まで通ってきた領地の街が村だったのではと思う程にビックベアーズの街は大きく感じました。久々の領主一家の帰省とあって街の人々は私達の馬車に頭を下げたり、花を投げて歓迎してくれています。私達は手を振り街を抜け、さらに1時間程馬車に揺られると今度は帝都の様な城門がみえてきました。


領都キイワです。


城門を抜けると帝都とそう変わらないほどの都が姿を見せました。何代か前の皇族の姫が降嫁されるにあたって当時街を作り替えたそうです。

その甲斐あってか「海の離宮」の二つ名をもち南東の大領地を差し置いて東部1の都と言われているんだとか。


外門をぬけ、平民街を抜け貴族街への内門を潜ると領事館や観劇場、大聖堂や屋敷街が見えます。

外国からのお客様も多いので国交のある国は領事館をお持ちなんだそうです。図鑑で見たことのある他国の国旗が旗巻いています。


そして一段高台にある城こそこのエメンタール領のシンボルで目指す終着点である領主館キイワ城です。

城の周りはぐるりと堀が掘られ、跳ね上げ橋をかけなければ出入りできない作りの様ですが私達の到着を見越してなのか、はたまた日中は降ろすのが規則なのか橋はかかった状態で私達を出迎えます。

馬車が乗るとギシリと音を立てましたが橋はとても丈夫な様で大きな揺れもなく渡りきります。

城内に入ると左右がシンメトリーに切り揃えられた庭園が私達を出迎えてくれました。領主館の中央ロータリーへ入る道には2頭のケルピーの像が歓迎する様にこちらを見ております。ケルピーはエメンタール家の家紋にも刻まれる我が領のシンボルなのです。


ロータリーから玄関階段へ降り立つと、そこにはお祖父様を筆頭に懐かしい方々が出迎えて下さいます。

祖父の前エメンタール伯爵、エルバム・フォン・エメンタール様。御歳58とまだまだお若いのですが、十数年前にあった海賊討伐の際に陣頭指揮中に負傷をし、そのまま家督をお父様に譲られたそうです。その時の古傷のせいで今も杖を使わなければ日常の生活が困難だと前にお会いした時にお話しくださいました。

そして、祖母のフランチェスカ・クラウス・フォン・エメンタール様。お名前のクラウスは公爵家出身である事を示すもので、お祖母様は先々代皇帝の姪御様にあたられる高貴な出自の方なのです。先代帝の時代にはその才覚から宮殿で政務を行われていた実績もある女傑で大変な才女として名を馳せた方なのだそうです。

この2人を筆頭に家人揃って出迎えてくれているのです。


「良く皆無事に帰ってきた!」お祖父様からお声があります。

「御義父様、御義母様、只今領地に戻りまして御座います。長の不在の間領地をお任せし心苦しくは御座いますが、恙無く本日を迎えられました事お喜び申し上げます。」お母様が綺麗なカーテシーで返答の挨拶を返します。


「うむ、今日は疲れたであろう。部屋は用意してあるゆえ、先ずは湯浴みでもしてゆっくりなさい」お祖父様が労りのお声がけを下さいます。

「ありがとうございます。御義父様。ですが先ずは子供達のご挨拶だけでもさせて下さいませ」と言ってカイン兄様の背を押した。

「ご無沙汰しております、お祖父様、お祖母様。この度は私の我儘にお付き合い頂く形になり、ご助力に感謝いたします。」

兄様は片膝をおり、胸の前に手を当てる貴族の礼をとります。続けてアレク兄様も同じ姿勢になり

「同じくご無沙汰しております、お祖父様、お祖母様。ご健勝そうで何よりで御座います。」と挨拶を述べます。

フレット兄様は腰を少し折り騎士の礼です。

「お久しぶりです。お祖父様、お祖母様。」

3人のご挨拶が終わったところで私もカーテシーをし、頭を下げます。

「お祖父様、お祖母様、大変ご無沙汰いたしております。この度はどうぞよろしくお願いします。」

そしてカーテシーから直ろうと少し頭を上げるとお祖母様と目が合いました。

お祖母様は眉を顰め厳しく口元を引き結んでいらっしゃいます。失礼をしてしまったかと私は不安に駆られます。

「スピカ嬢、もう一度ご挨拶なさい。」

お祖母様の厳しいお声がかかります。やはり私の礼に失礼があったようです。私はもう一度カーテシーをします。腰を落とし切る前に「もう一度」と言われ、それから2度程のやり直しをしたところで、「まぁ、良いでしょう。それと、エルバム様のことは前伯爵様、私のことはフランチェスカ様か前伯爵夫人とお呼びなさい。」と御指摘頂きました。

「「「お祖母様‼︎」」」とお兄様方は声を上げましたが、お祖母様の一睨みで言葉をのみます。

「御義母様、スピカも孫で御座います。お祖母様とお呼びしてもよろしいのではないでしょうか?」

おずおずと進言すると、「この家のことは私が決めることです。挨拶が終わったのならば早く入りなさい。」と屋敷へと入って行かれました。

残された私達にお祖父様は「ケッカは少し気難しく考えすぎる。許してやってくれ。私のことはお祖父様で構わないが、ケッカの前では気を付けておくれ」と言って頭を撫て下さいました。


領主館に入ると大きな広間と左右に伸びる階段、正面には大きな家紋のタペストリーが壁にかけられています。帆船に剣とケルピーの私達にとっては見慣れた家紋です。1階と2階の半分は政務や外交の公的な用向きで使用されており、私的な空間は2階の半分と3階より上の階、そして別館になるとお兄様の説明を聞きながら足を進めます。


3階にお兄様達とお母様が向かう途中、メイドに私は声をかけられ、「お嬢様のお部屋はこちらで御座います。」と案内を受けました。

「おい!そっちは客間だろ?なぜスピカをそっちに案内するんだ?」階段の中程から降りてきたのはアレク兄様です。

「大奥様のご指示です…」年若いメイドは怯えたように答えます。

「お兄様、きっとお祖母様…前夫人のご配慮です。私が慣れない長旅で階段を登ることも辛いのだとわかってくださっているのですわ。」

そう言って私は1人2階の客間へと案内されるのでした。

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