ぶつける想い
「透の過去について聞きたいって何なんですか……?」
そう言って、若干の敵意を向けながら、女川君の小学生時代の同級生、白雪真代は訊ねる。私と白雪さんとの間には剣呑な雰囲気が漂う。この雰囲気では、話が聞き辛い。雰囲気を和らげる為、白雪さんの敵意を受け流すように軽く微笑む。
「そんな敵意のある視線を向けないで欲しいわ。別に女川君の過去を知って、どうこうしようとか思っている訳じゃないわ」
「……じゃあ、何なんですか?」
「私はただ……知りたいのよ。なぜ、彼が恋愛感情を頑なに拒むのか。そしてそれは、過去に女川君の身に何かがあったんじゃないかって……」
「……」
私の返答を聞くと、白雪さんは怪訝な表情をしながら、黙り込む。
おそらく、今、彼女の頭の中では色んな考えが右往左往しているのだろう。私を信用していいのか、私は敵ではないのか。表情から察するに、白雪さんはそんな事を考えているはずだ。
何より、彼女が私に向ける敵意には、女川君を傷つけるものは許さないという意志が感じられる。私も女川君が好きだからこそ分かる。彼女の行動は、すべて女川君のために動いている。
彼女は本当に女川君を慕っているのだろう。傍目からでも、彼女の女川君への好意が感じ取れる。しかし、だからこそ彼女に聞かなければならない。
女川君の過去に何があったのか。もしかしたら、彼女も関わっているのかもしれない。彼女の傷口を広げてしまうかもしれない。でも、私に引き下がるという選択肢は無い。
だからこそ、私は打ち明ける。彼女に私の気持ちを。
「……率直に言うわ。私は女川君を1人の男の子として愛しています。でも……私の気持ちは彼に断られてしまった……。女川君は理由を言ってくれた。でも、女川君が私を断った理由にはどこか嘘があると感じた……」
「……」
白雪さんは沈黙を続ける。
「私は知りたい。彼の過去を……。彼が私を断った理由の骨格を……。そして、知った上で彼と共に今後の人生を歩んでいきたいの……」
「……」
これが私の率直な気持ちだ。上辺だけを飾ることを辞めた私の本心である。どうか、この思いが白雪さんに伝わって欲しい……。
しばらく俯いていた白雪さんは、不意にポツポツと語り出す。
ーーーーーーーーーー
《白雪真代視点》
私が透と初めて出会ったのは本当に小さい頃だった。小学生にもなる前、幼稚園にまだ通っていた頃だった。互いに5歳くらいの時だと記憶している。
他県から親の転勤に付き合う形で引っ越してきた私は、幼稚園ではすぐに馴染んだ。自分から言うことでは無いが、その時から私の容姿は整っており、何もしなくても人は自然と集まってきた。
しかし、透だけはみんなと違い、遠巻きに眺めているだけだった。そんな透を見た私の最初の印象は、ボーッとしている事が多い子だなというものだった。お世辞にも良い印象とは言えない。
正直、透のことは幼稚園の中でも全然認識していなかった。私は集まってくる友達と遊ぶのに夢中だったからだ。透の事を認識すらせずに、毎日を楽しく過ごしていた。
そんなある日、私は遊具に登っていたところを落下し、膝に大きなすり傷を作ってしまった。擦りむいた膝からは血が滲み出し、私は痛みに耐えきれず泣いていた。
周りの友達もまだ小さいという事もあって、オロオロと様子を見るばかりである。丁度、先生も席を外してしまっており、解決してくれる者は誰も居なかった。
子供ながらに、このままじゃ死んじゃうかもしれないと私は思った。実際はそんな事にはならない程度の怪我だ。しかし、子供の時の私は本気でそう思った。
でも、そんな状況を助けてくれた子がいた。それが、女川透である。
遠くから駆けつけた彼は、私の周りにできた人だかりを押しのけて、優しく言ってくれた。
「大丈夫、僕が絶対に助けるから」
私の手を握りながら、そう言う透を見て、当時の私はとても安心していたように思う。
救急箱を持ってきていた透は、消毒からガーゼを当てるまで実にスムーズな流れで膝を治療する。そして、治療を終えると、透は私が感謝を言う暇もなく、すぐに去っていった。
透が居なくなると、周囲で見ていた子達は私に色々な言葉を投げかけてくれていたと思う。でも、私には聞こえていなかった。去っていく透の姿に見惚れて……。
そこから、私と透はいつも一緒にいるようになった。家がそれなりに近所だった事もあり、私と透の仲は両家の家族が公認するものとなっていた。
互いに透とまーちゃんと呼び合い、幼稚園の帰りはいつも手を繋いでいた。確かに、透と一緒にいるようになってから、友達は減ったように思う。
でも、私は透と一緒にいられる時間が嬉しくて仕方が無かった。透は同年代とは思えないほど大人びており、いつも私の事を思って行動してくれていた。
この時、私は100人の友達を作るより、1人の親友を作る事の方が大事だという事を知った。そして、友情が恋愛感情に変わるのに時間は掛からなかった。
幼稚園を卒業する頃には、自分でも自覚するほどに透への恋心を私は理解していた。小学校に入って、1年、2年と積み重ねるごとに想いは加速していた。そして、小学3年生の秋、ついに私は透に告白することを決断する。
学校が休日のある日、私は透をいつも遊んでいる公園に呼び出した。初めはいつも通り、遊んでいた。いざ、告白するとなったら緊張してしまって言い出せなかったのだ。遊んでいる間に、夕陽は下の方まで沈み、辺りは夕陽で照らされ、赤くなっていた。
夕陽が落ちる前に告白しなければと勇気を振り絞り、帰ろうとする透を呼び止める。不思議な表情で私を見つめる透の視線が刺さる。喉まで出掛かっている言葉を、私はなんとか外に出す。
「私、透のことが好き。だから、私と付き合って」
私の告白を聞いた透は見たことないほど驚いていた。透でも驚くことあるんだ……と私の頭は場違いな感想を持つ。しばらく口をポカーンと開けていた透は、やがて口を開く。
「俺も、まーちゃんのことが好きだ」
透の返事を聞くと、私の体に言葉では表せないほどの嬉しさが込み上げる。この時が、間違いなく人生最良の日だったと思う。好きな人と結ばれる、こんな良いことなど無いだろう。初恋ならば、尚更である。
でも、そんな幸せは長くは続かなかった。それもすべて、私の自業自得だ。ここからの記憶は私の罪の記憶である。
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