(24)
ジェドは歯を鳴らし、身を低くすると周囲に目を走らせる。
左脇から1体が頭上高く跳ね上がると、彼の顔を目掛けて大口を開けて迫りくる。
その束の間、目を閉じて言い聞かせた。
来るもの全て、シャンディアの仲間であると。
沸き立つ緊張と熱い感情が、器から溢れ出る時、それは起こる。
世界が静寂に満ちた瞬間――視界は灰を打ち撒いたような空間に一変した。
ジェドは、頭上数十センチまで降りかかる人魚の下顎を潜り抜け、腹の下へ速やかに移る。
そのまま槍の中央を使い、人魚を腹から一気に地面に叩き落した。
その後方から2体が尾鰭を蹴り、爪と牙を立てながら襲撃する。
ジェドは視線を維持したまま地面に触れるまで屈むと、先に迫る人魚の胸部に拳を1発捻じ込む。
しかし人魚は彼を掴もうと、両手を内に折り込んだ。
けれどもここは、自分だけの灰色の世界。
非常に緩やかな人魚の動きを容易く躱し、翻っては地面に仰向けで寝そべる。
そのまま、真上を通過する人魚の腹を1発蹴り上げた。
人魚は地面を転がり、海に呆気なく消える。
飛沫が上がるのを横に、続けてもう1体が攻めてきた。
落ちた人魚と僅かな差で、それはジェドに触れかける。
その直前、ジェドは透かさず後転してしゃがんだ。
人魚は機敏なジェドに間に合わず、顔から地面に落下する。
しかし人魚の持ち直しも早く、体を大きく翻すなりジェドを引っ掻きにかかる。
ジェドはその動きに、尖る目を凝らした。
腕の振り方から次は左手、寸秒で右手がくるだろう。
この、何もかもが鈍く動く世界は、先読みできるが故に攻撃が確実に綺麗に決まる。
大波に呑まれるように押し寄せる快感に、溺れそうになる。
ジェドは槍を構え直すと、先端で人魚のこめかみを、海側に向けて激しく殴打した。
人魚は直線を引くが如く海へ吹き飛ぶ。
違う体を手に入れたように、力が漲っていた。
数十秒で人魚を一掃し、目の前が開けると漁船を振り返る。
陸との距離は、船体の中央で構えるカイルの手が届くかどうか。
人魚からの距離をどうにか稼いだところで、ジェドは漁船に全力疾走する。
もう、船体の横扉で待つビクターの腕には届かない。
落ちようものならば、人魚に追いつかれる。
必ず、決めねばならない。
助走距離と歩幅を意識した時――
「来い!」
カイルの声に引き寄せられるように顔を向けると、足場が途切れる寸前、最後の1歩で力強く地面を蹴った。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




