(23)
「追いつけ!」
ビクターはジェドに放つと、シャンディアを船体の扉の梯子に誘導する。
「急いで!」
シェナの叫びに、弛んでいた帆が目一杯に張られた。
強風はジェドを置いたまま、漁船を押し始める。
「あいつまたっ!何やってる!」
マージェスは、またも勝手な行動を取るジェドに焦燥する。
漁船は船着場に沿って進行していた。
ジェドが駆けて飛び乗るまでの距離は、あるか。
大人達がジェドを叫ぶ横で、ビクターはじっと船体の横扉で待機し続ける。
その時、判断したカイルが漁船の最後尾に駆け、係留ロープを掴む。
「結べ!」
傍にいたマージェスが咄嗟に受け取ると、船内の適当な柱に結んで固定し始める。
それを任せる最中、カイルは船首の横に登り、腰にロープを結びながら頃合いを待った。
刹那、真下に大きな影が揺れ、カイルは転落しかかるのをどうにか免れる。
鋭利な銀の光から遂に、それは姿を現した。
「やあどうも。二度とって言ったのに懲りねぇな」
彼は浮上する人魚の顔に引き攣り、苦笑いする。
カイルを捉えた1体は、船体に爪を立て、口から泡を吹きながら悲鳴を上げた。
そこへ、脇から数個のアスファルトの欠片が投げつけられる。
人魚は威嚇の牙を剥きながらそちらを振り返ると、ジェドは偶然拾った錆びて曲がった鉄棒を投げ、人魚の額に命中させて沈めた。
「走れジェド!飛べ!」
カイルは痺れを切らし、ロープで船体を伝う体勢に入る。
ジェドは徐々に離れていく漁船を気にしながら、鉄棒を当てた人魚にも目を光らせていた。
人魚は案の定、再び顔を見せると辺りに視線を這わす。
彼はその様子に、口笛を短く吹いた。
「目がいいんじゃねぇのか?こっちだ!」
挑発された人魚は牙を剥きながら悲鳴を上げると、いよいよ尾鰭で水中を蹴って飛躍する。
更に別の方角から数体が跳ね上がり、着地した。
ビクターは、つい体が飛び出しそうになるのを堪える。
ジェドが必ず戻ると信じ、遠ざかるその姿を見守り続けた。
2人きりになった際の、彼の言葉を噛み締めながら。
その時、漁船の後部では、間に合わないと思ったカイルがロープを伝って船体の半ばまで下りて飛び移ろうとしていた。
「待てカイル!」
つい、声が出た。
あと少し、任せてもらえないだろうか。
彼は、この襲撃をきっと止められるだろうから。
カイルはビクターの声で動きを止めるが、心臓は今にも口から出かかっている。
「もーっ!早く乗んなさいよあんたーっ!」
シェナが腹を立て、顔を真っ赤にした時、突風が船着場を一掃するように吹き抜けた。
ジェドはそれに少々煽られるも、風は主に人魚を吹き飛ばし、陸を派手に転がした。
片や漁船は、今すぐ飛べばカイルを掴める位置にまだいる。
間に合わせてみせる。
ジェドは威嚇する人魚を睨んだ。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




