(20)
騒がしかった環境が、嘘のように静まり返っている。
鏡の帳によって、波の音すらも遠くに感じる事から、余計に奇妙な静寂が籠っていた。
同じ砂地でも、ここの地面は違う。
ジェドは暗い中をそそくさと進む中、小さなブロックが綺麗に整列した花壇を見かけた。
東の島でも、林や隣の孤島で見つけた草花を家の前で育てているが、こんなに角も辺も揃ったものは珍しかった。
風も落ち着き、温かさもないこの場は少々快適だ。
腰に提げていた槍を引き抜くと、振った弾みで最長に伸びる。
地面に触れた先端の音に、意味もなく耳を澄ませた。
こうして、独りになろうとする。
なった方がいいと思う瞬間があるが、それが今だ。
大人は反抗期や思春期という言葉を使っているが、聞けばそれは年頃のもので、ある程度大きくなればなくなるのだそう。
ならば、あんな風になってしまう事も直に消えてくれるのだろうか。
「おい」
「……何だよ、来たのか」
ビクターは向こうで再び話を聞くよりも、ジェドと共にいたかった。
直接見て感じ、実際にされてきた、仲間を気にする事。
幼少期は散々、友達を突き離してきたが、それでも来てくれた。
そうされる事が嫌だった自分が少しずつ変わっていけた事を、ずっと忘れない。
ジェドの足が止まった。
篝火もない、木々に囲まれた暗がりで、ビクターを背に呟く。
「……また……大変な事になっちまうかな……」
既に起きている事以上のものを意味している。
そう捉えたビクターは、肩越しに彼と目が合うと、分からないと首を振った。
「お前、何か周りに言ってねぇ事とかあるか……」
ジェドの探るような質問に暫し間を置く最中、ビクターは二本、三本と木を追い抜いて行く。
「いいや。陽炎が見える事は、空島の話で喋ったし」
ジェドはそれに小さく頷くと、重い足取りで進んだ。
「……言っておいて、いいか……別に、黙っててほしいとかじゃねぇんだけど……もう……」
もう、独りで認識しているのには限界かもしれない。
そうまでは言わなかったが、ジェドは槍の先端で地面を弄りながら話し始めた。
「俺……戦う時、世界が灰色に見えんだ……急に、動いてるもんが何もかもゆっくりに見える……」
ビクターがそれに驚くのは、ほんの一瞬だった。
ジェドは空島で異常な速さを見せており、それに駆られていたところ、自分が殴って止めた事がある。
ただ、背景がそのようになっている事は初耳だった。
「きっと奴等は容赦ない。
シャンディアやフィオを通して、俺やお前の事も、シェナの事も分かってるだろう……だから……もしまた攻めて来たら、その時は……」
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




