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「あ」




後からやって来た男性はつい、裸眼で凝視する。






 「ライリーっ!」




レックスは、針の先端が触れたかどうかのところで恐怖とストレスが頂点に達した。




「悪い、変更だ。気絶させてくれ早く!

そいつをぶっさした激痛で、気絶できるって事だろ!?」




口は勝手に、無茶苦茶な事を言っている。




「……一度で決まれば早い方法はある」




空気は不安に満ちるばかりだった。




 そこへ、ライリーの言葉に気付いたカイルが立ち上がると、レックスの真正面に回る。




「分かった。立て」




レックスは瞼を失い、急に何だと彼を見上げる。




「いつか返してやろうと思ってたが、今のようだ」



「……は?」




何の話かは気になるが、長く躊躇っていられない。

レックスは疑いながらもカイルに従う。




「悪く思うな。あの時お前も、俺の為にやった。

俺も、お前の為にやる。それだけだ」



「何言っ――




言い終えるまでに鈍い音が1発、篝火に()べられた薪が弾ける火の粉と重なる。

カイルは、レックスのこめかみを真っ直ぐ殴打した。

止めを効かせた固い拳には十分な力がこもり、華麗に決まる。

レックスは喉を抜かれたように声を断たれ、崩れ落ちた。

4人は悲鳴を上げると咄嗟に、傍の住民達に肩を抱かれる。




 「カイル!?」




グレンは彼の行動を疑うも、マージェスは静かに納得の頷きを見せながら苦笑した。




「ヒーロー気取りがどうした。

当然だろう、俺は一生現役のレスキュー隊員だ」




カイルは横たわるレックスに僅かな怒りを含ませて放つが、それも束の間の事。

言い終わりには、溜め息混じりに小さく笑った。

これが何を意味するのか、4人は聞かされていない。




 あれは、4人が空島から帰還する直前の事。

荒天続きで、心境を含め何もかもが限界だった。

怪我をしていたカイルも情緒不安定に陥り、4人の救助に向かおうと、荒海に船を出せと無茶な行動を取ろうとした。

疲弊したレックスは焦燥し、そんなカイルを罵る傍ら正気を取り戻させようと、床に投げ飛ばした事がある。




 思い出したグレンもまた、苦笑を浮かべた。






 ライリーの手捌きは、誰が見ても分かる程に速かった。

見ているだけで痛いのだが、細かく、綺麗に閉じていく傷に目を奪われる。

確実に手慣れている技術者だというのに何故、医者ではないと言うのか。




 「これも魔法だわね」




すっかり恐怖を感じなくなったシェナは、まじまじと施術に食い入る。

他の器具にも興味を示し、つい触ろうとするのをライリーに止められた。




アイザック(ドクターベジー)と会えば、もっと凄い事できそうね」




そんなフィオの想像は、ライリーの背中を擦り抜けていった。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


9月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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