(16)
「そういえばその毒って、体の中に残ってたら、まさかあんな姿に変わっちゃうの?」
シェナの問いかけに、皆はゾッとしてレックスを見た。
レックスは咄嗟に、体中を隈なく見渡す。
「分からない……ただ、貴方は人間……
同じ人魚になったかどうか……」
レックスは想像を絶して顔を拭った。
「それって、よくあるゾンビってやつ?」
真っ直ぐ飛び込んだのは、落ち着いた男性の声。
皆の視線の先には、漁師達と歳や体つきが似ている者が座っている。
シェナは、その目に黒いものを引っ掛けている彼に目を見開く。
明るいこの場だから気付いたが、掛けているそれは黒ではなく焦げ茶をしていた。
彼は、昔よくやっていたゲームを思い出したと付け加えれば、周囲はまさかと言わんばかりに慌てて首を振る。
そんなやり取りにも無関心なライリーは、シャンディアの話を聞き入れ、患部を再び見た。
ライリーは床に置いた荷物を広げ、
大きさが違う布類や、裁縫道具の他、釣り針を真っ直ぐに伸ばしたであろうものを並べる。
細い透明な糸も出てきた。
そして、来るまでずっと手にしていた瓶の栓を抜き、手や道具に塗り始める。
「うえっ」
ジェドはその臭いに、すぐさま鼻を瞬時に覆った。
何だか知っている臭いだと気付いたグレンは
「酒があんのか!?」
つい、声を上げてしまう。
どうやら、数える程に残っていたが、殆どをライリーに取られたそうだ。
それらは全て、度数が高いもので揃っている。
飲まないよう言われている理由は、今、彼女が施している事を見れば明らかだ。
ライリーはふと、細長く巻いた布をレックスに手渡す。
「耐えるなら噛んで……
あと、何人か押さえてて……」
フィオは小さく声を漏らすと、大きく後退る。
それにシェナも釣られ、後の2人も逃げるようにレックスから離れた。
レックスの手足はいよいよ抑えられていくのだが、特に施術するライリーを蹴らないよう、右足にはマージェスとカイルが付く。
冷や汗が滲むレックスは早くもぐったりしてしまう。
腹を括っただなんて思う自分に、嫌気が差した。
シャンディアが椅子から立ち上がると、怯える4人に近付く。
「大丈夫」
彼女は微笑むと、ふわりと鏡の双眼を見せた。
そこに映る光景に、4人は吸い込まれるように見入ってしまう。
「何だい?」
興味を示してやって来たのは、例の不思議なものを目に掛けた男性だ。
他にも数名の南の大人が来ると、シャンディアの眼を覗き込む。
「レックス寝てんじゃん」
ジェドはすっかり恐怖が吹き飛んだ。
ビクターは、そこに映るカイルの位置に疑問を浮かべる。
「立ってる。今は屈んで足押さえてんのに?」
その声に導かれるように、映像を見た皆は抑えられたレックスを振り返った。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




