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(15)




 シャンディアは、誰よりも黒く際立つ女性の背中をじっと見つめる。

眼力を通じて見える背景を静かに閉ざすように、曇る顔を逸らした。




 「彼はレックス。彼女が、腕を持つライリーだ」




スタンリーが紹介しても、沈黙が暫し続くばかり。

そこへレックスが、気さくに手を差し伸べるのだが、彼女は一切応じず身動きも取らないまま、問題の怪我を凝視する。




「……その布、剥がしてもらえるかしら」




血が滲むそこを眺めていたライリーが(ようや)く切り出せば、挨拶くらいいいだろうと仲間に騒がれる。

彼女はそんな事よりも、これからやるべき事にだけ集中するといった具合だ。




 レックスは彼女をどこか奇妙に感じながら、いそいそと患部を晒す。

繊維と磨り潰した薬草が付着している影響で、ビリリとした痛みが走った。




「……分かってるだろうけど麻酔がない

……痛みに耐えてもらう事が条件」




激痛との戦いを強いられる事は分かっていた。

道中では、縫合に耐えられるかと仲間で騒いだ後、船室に戻って腹を括っている。




「動くようになるんなら、頼むよ」



「……まぁ、手がない訳じゃないけど」 




2人の会話だけだったその場が瞬時に(ざわ)つく。痛みを感じずにいられるというのか。




 返答を待つ間のライリーは、傷か、どこか宙を見るかのどちらかを繰り返している。

一体どこを見ているのかと、ビクターとシェナは首を傾げた。




 ライリーは肩にかけていた荷物をそっと下ろす。



「……失礼」




レックスは触診をされるも、その僅かな痛みで顔を引き攣らせた。

その拍子にやっと彼女と目が合う。

髪の隙間から睨め上げる顔は恐ろしく、何か悪さをしただろうかと疑う程だ。




「あ、いや。何でもないさ!」




そう言わざるを得ないだろう。

しかしカイルやグレン、マージェスは、彼から痛みが伝わってきてならない。




「その、手段ってのは?」




あるのならばとマージェスが訊ねると




「……気絶させる事ね」




皆は青褪める。




「ライリー?それなら、シャンディアの魔法が戻るまで待ってもいい?」




フィオが焦りながら頼む後ろで、シャンディアの眼が揺らぐ。

本来できる回復の力を発揮できない事が、惜しい。




 ライリーは肩越しにフィオを振り返ると、首だけで否定した。

傷の放置は長くなればなる程よくない。

それこそ壊死するだろう。




「……毒と言ったわね……吸引できたの……」



「私が魔法で全て抜き取った。大丈夫、残ってない」




シャンディアの、魔法という言葉。

島に起きた人魚の襲撃や、光の輪の現象といい、人々は、世に起こる奇怪な出来事にただただ困惑に陥った。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


9月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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