(12)
島中には、人探しに慌てたり、招集をかけられ移動したりする人々の忙しない音が響き渡っていた。
「急げ!海岸には近付くな……よ……何だこれ!?」
ある南の者が足を止め、宙を見渡す。
銀の光の輪が島一帯を囲んで走る摩訶不思議現象に、目を奪われた。
シャンディアの鏡の帳の術に、釘付けにならない者などいない。
ジェドはそれに目もくれず、見つけた小さな桶に海水を汲みながら、他にも桶がないか探していた。
そこへビクターが、先に広がる浜を指差す。
「あっちにタンクみたいなのがある」
2人は暗い瓦礫の路を駆け抜け、海の近くまで来た。
馴染みある砂浜とはいえ、多くの珍しいガラクタが沢山ある。
「何だここ。変なもんいっぱいあんのな」
ビクターが至る所に転がる容器や流木、ランタンとして使えそうな缶を見つけた。
「これいいじゃん。でかい」
隣でジェドが見つけたのは、自分達の島にも幾つかあるプラスチックタンク。
蝋燭や燃料に変える為の油を集めるために使用しているそれと、よく似ていた。
ビクターはジェドからそれを受け取ると――
「駄目だよ」
「「!?」」
低く耳に入り込んだ誰かの声に、肩が大きく飛び上がる。
タンクは、中で液体のような音を立てて落ちた。
「むやみに触っちゃ……」
声に振り向くと、真っ黒な姿をした誰かが立っている。
目が慣れてくるにつれ露わになったのは、まるで空島で見た魔女のような細い女性だ。
突如飛び込んだ彼女の低い声は、少々鋭いものを感じたが、顔が見えてくるとまた印象が違う。
島の子ども達の母親やアリーに似ているが、この人はまだ若く見える。
2人は互いを見合い、彼女の存在を僅かに恐れながら訊ねた。
「あの……海水、汲みてぇんだけど」
「水がないとまずい子がいるんだ」
彼女はしかし、目を尖らせたまま落ちたタンクを取ると
「そう……まぁでも、見てごらん……」
中に僅かに残る液体の音を立てては、適当にそこら辺のコンクリートのブロックに撒いてみせた。
「「何だそれ!?」」
2人は声を揃えながら、中身を吹っ掛けられたブロックを興味深く見つめる。
その液体からは、次第に細かな泡が沸々と浮かび上がった。
それはみるみる増え、表面を伝って流れると、着地した先にあった何かしらにまで伝染するように泡を発生させ、同じ現象を起こしていく。
「酸性……ものを溶かしてしまう……
汲むならこれを……」
2人は彼女の発言に驚いた。
ものを溶かしてしまう液体など見た事もなく、どうしてそんなものが流れ着くのかと首を傾げる。
彼女、タンクの中の薬品の判断が早いですね
また、若く見えるというだけのようです
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




