(9)
シェナの隣では、フィオがこれまでにないほど泣き崩れ、身を縮めている。
「いてやれ」
ビクターはフィオを心配しながらもシェナに任せ、槍を咥えると人魚を海まで引っ張った。
シェナは、フィオのすっかり丸くなった背を擦って声をかける。
何故か彼女は、涙を流す割に目を閉じず、必死に見開いたまま一点を見つめていた。
「もう収まったし、そんなに見開かなくても」
「閉じたくないのっ!閉じたくないのっ!」
フィオは混乱し、またもシェナに泣きつく。
体が小さいシェナは、その勢いで後方に転倒した。
土だらけになる体を払う事もせず、激しく震えるフィオを細い腕で抱き締める。
「声がしてたわね?何か言ってたの?」
「なんにも言ってない!なんにも言ってない!」
シェナは問い質す事を止めた。
どうやら今は声が届きそうにないと、そのままフィオの背中を擦る。
幼少期によく、大人達にそうされながら涙を引っ込め、優しさに包まれていったように。
「一緒にいるよ……
だって、ずっと一緒だったもの……
どこへも行かなくていいのよ……」
島で聞いたシャンディアの話の最中、フィオは強く主張した。
私はここにいる、と。
シェナは、そう強く思わせるような事態が起きている事を噛み締めると、フィオの体に更に力を込める。
そうする内に、自分の目も熱くなり始めた。
しかし泣かない。
今は友達を支えねばならない。
そう言い聞かせては、人々が海へ人魚を運ぶ光景を眺めた。
その背後の傾斜を登った先では、スタンリーを出迎える人々の賑やかな声がする。
「大丈夫だ!
わしゃただ助けてもらって、送ってもらったんじゃ。
それより医者を呼んでくれ!彼が怪我をしとる!」
彼は仲間に近付きながら、その他の事情も次々に話している。
幽霊だと恐怖していた仲間達も、本人だと分かると安堵し、レックスと共に迎え入れた。
「えらい事だ、あの親子が酷い目に遭った。
それだけじゃない、わしらも島も、東の彼等も危険だと」
「一体何を言ってる!
さっきの事態も……ありゃ何なんだ!?」
仲間が口々に人魚の襲撃について言及する。
話す事が多過ぎるあまり、スタンリーは、とにかくと手を宙にはためかせた。
「このままここで話す事じゃない!全員集めろ!
それと早く、ライリーを探してくれ!」
暗がりで小さくなるシェナとフィオに、そっと近づいてきたのは1人の女性。
その背後には、ランタンを持った男性もいる。
目に真っ黒なものを引っかけており、シェナは見た事ないそれに気を取られた。
その彼は何も言わず、優しく微笑み返してくる。
「驚いたわね……明るいところへ行きましょう」
手を差し伸べてきた女性は、まるでアリーに似ていた。
フィオはその声に濡れた目で振り向くと、目に留まったものに声を上げた。
「何!?あったかそうね、これ!」
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




