(8)
襲撃が収まり、4人や南の人々は徐々に警戒を解いていく。
皆は、シャンディアが運ばれていく様子を眺めていると、人魚の数々の苦痛の叫びに肩を飛び上がらせ、反射的に耳を塞いだ。
シャンディアによって放たれた鏡の泡が体に付着した途端、人魚は忽ち地面をのたうち回る。
皆は何事かと、未だ1体に向かって浮遊する泡を目で追った。
まるで生きているかのように、それは人魚にみるみる迫っていく。
人魚はその接近を回避しきれず、頬に触れられた。
途端、泡は鋭利な音を立てながら鏡の棘を生やし、その激痛に人魚が泣き叫ぶ。
その形はまるで、シャンディアが胸元に着ける装飾にも似ていた。
フィオは目前の人魚の急変に驚き、尻もちをつく。
棘の球体は何かを吸い取っているのか。
そこから立つ細かな白銀の微光は、黒煙を上げて揺れる。
そこに染み込むようにみるみる燻み、やがて表面に亀裂が生じると弾け、消滅した。
「……静か……もしかして元に戻ったの!?」
シェナがフィオに寄り添いながら、目を見開く。
人魚は微かな唸り声を上げているが、容姿などに何の変化もなかった。
ビクターは立ち上がると、すっかり弱り切った人魚の体を、足先で数回突いてやる。
声を荒げるだけで精一杯か。
攻撃を仕掛ける事はなく、ただがなるのみだった。
フィオは眉を顰め、辺りの人魚を見て気付いた。
それらは倒れたままだが、顔だけが自分に向いている。
乱雑に揺れる歪なオレンジの眼球。
緑の血が混ざる泡が溢れ、頬や目元、額を伝う。
「……れ……オ……ガ……せ……ルガ……」
「何か言ってる!」
シェナはフィオと共に大きく後退った。
その動きに合わせ、人魚は聢とフィオを眼だけで追い続ける。
ついに腕まで伸ばされると
「わっ!」
フィオは咄嗟に両耳を強く塞ぐと目を瞑り、シェナに飛びついた。
「向こうへやって!向こうへやって早く!」
まるで発作か。
フィオは片手で宙を掻きながら、不快な声を払い除けようとする。
また、そうしてくれと焦燥しながらシェナに懇願し続ける。
「早くあっちへやって!早くして!」
自分自身でそうしたくとも、聞こえてくる不可解な言葉が怖くてならず、人魚に接近できない。
その光景を見た後の3人や、襲われていた南の人々は互いに見合うと、動き出す。
今やすっかり弱体化した人魚。
迫っても抵抗する様子がないならばと、それぞれが尾鰭を掴み、海まで引きずった。
離れていくうちに気味悪い声が消えると、フィオの激しい動揺はどうにか治まった。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




