(3)
「これか!?これ!」
ジェドはふざけてランタンどうしをぶつけ合い、派手に音を立ててやる。
ビクターは首を振り、ランタンを叩きつけるジェドの手を止めた。
「消えるだろうが!止めろ!で、そんなんじゃねぇ」
「ほう。そりゃ鈴か?坊主」
「「すず!?」」
スタンリーが溢した新しい言葉に、4人は目を丸くする。
反対側にいたシェナが、船縁から飛び降りてやって来た。
騒ついていた彼等は今や、楽しげに話している。
シャンディアは肩の湿らせた布を内に寄せながら、その光景を見守っていた。
眼は震え、僅かに瞼が下りると次第に俯いていく。
ビクターが授かったものもまた大きいが、欠如している。
彼は陽炎を捉えられるが、それだけだ。
シャンディアは、彼が言う夢で耳にしたと言う謎めいた音を胸に、そっと東の方角を振り返る。
「じゃあその、すずってやつだろ」
ジェドは勝手に納得し、再び海の方を見た。
「それにしたって、何で俺がそんな音聞こえんだ?
見た事も聞いた事もねぇ。持ってもねぇ」
ビクターは更に混乱する。
「何か、この辺から聞こえたんだ」
彼は言いながら胸の辺りに掌を翳すと、そのまま首に触れ、再び悩む。
「俺……何か持ってたのか?」
「あんた何か失くしたんじゃないの?」
よく動き回る彼は、色々な物を失くしたり壊したりしてきている。
きっとまたそうなのだろうとシェナに指摘されるのは、何も珍しくない。
シャンディアは彼等に背を向けたまま話を聞き続けている。
顔は強張り、船縁の両手は力強く拳を握っていた。
ビクターが見る夢はもしや、あの者の知らせか。
大人達は、昏い様子を漂わせていた4人が賑わうところを見て緊張が解れる。
その時、風が冷たくなると同時に少し弱まった。
ジェドは鼻をひくつかせる。
「何か臭わねぇ?」
それに合わさるように、舳先の傍にいたグレンがスタンリーを呼んだ。
直に見張り台のカイルが、陸が見えると放つ。
皆は船縁から身を乗り出し、進行方向に目を凝らす。
揺れる小さな炎。
そこから風に乗って漂う、嗅ぎ慣れた薪や食材の香り。
そこにまた違った臭いがするとジェドは言う。
「ここにはお前さん達のところとは違って、街のもんが残っとる。
臭いはそのせいじゃろう。何とか無事のようだな」
スタンリーは、やっと自分の島に戻ってこられた事に安堵する。
街のものとは興味深い。
4人は胸を少しばかり弾ませながら舳先の方へ移動し、その陸をより近くで捉えようとした。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




