(2)
「思いついたものを歌っていれば、思い出しそう。
運んできてくれそう」
風は穏やかになりながらも、船を力強く押し続ける事を止めない。
「……あまり強いと、灯が消えないかしら」
「消えないよ」
まるで石を投げ込むようなシェナの素早い返答に、シャンディアは眼を見開く。
波の音が互いの間で際立つ時、シェナはニヤリと笑った。
「だって皆の火を思い浮かべてるから」
「……そうすれば、消えないの?」
「消えない。何でかは知らないの。
……あ、ダメよ、言っちゃ」
シェナは少々慌ててシャンディアに釘を刺す。
そんな彼女を見て、シャンディアは確かに感じ取った。
シェナはきっと、空島で魔女に声を奪われた事で大きく知った事がある。
だが、真実まで辿りついていない。
彼女はそもそも、それが不明瞭だからといって気に病む事をしない。
自身が言うように、風が運んでくるのではないかと期待している方が、穏やかでいられる。
よって、操っているなどとも思っていない。
「何でか知らないけど、多分、今は風が温かいから消えないよ」
そのように感覚で判断しながら、不可解な何かと共存するべくして生きてきた。
その時ふと、床の軋み音が立つ。
先程から傍で耳を傾けていたフィオが、ジェドの方へ移動した。
そこにはビクターもおり、2人の会話が気になったようだ。
「夢って?どんな夢?」
集まる3つのランタンによって、3人の顔がより明るく闇に浮かぶ。
シャンディアは、フィオがビクターに訊ねる夢について耳を欹てた。
「昨日の朝、起こしに来ただろ。その時に見てた夢」
その内容はもう、当時よりもぼやけているらしい。
それでもまだ、不思議な感覚も残されている。
「誰かに押された。で、別の誰かの中に落ちた」
「何だそれ。床に落ちただけだろ」
ジェドは揶揄うと、船縁から落ちかかるランタンを慌てて支えた。
「落っこちてたのは足だけだったわよ?」
フィオは思い出して言う。
夢を見る事は何も珍しくはないのに、その夢だけがどうしても引っ掛かるビクター。
「どっか歩いてたんだよな。
で、音が聞こえたんだよ。
何か……Ringて……こう……
何かもっとTing-A-Lingだ。分かるだろ!?」
「何だよそれ!分かるか!」
「ああもう!分かれよ!」
何とも表現し難い綺麗な音だが、上手く伝わらない。
現実で、それに似た音が出るものが無い事ももどかしかった。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




