(7)
思い出すのも心苦しい、世界の崩壊の時。
シャンディアは暫し言葉を詰まらせる。
ただ事実を打ち明ければよいのではない。
後ろめたさが滲んでしまうのは、他にも要因があるからだ。
惨劇が起こるまでの期間も、コアは陸に呪いを放っていた。
しかしミラー族は、人の足を持てたとしても陸に長く滞在できない。
故にその被害を抑える為には、手段を選ばざるを得なかった。
陸で戦う事に有利な存在が何か、口にするまでもないだろう。
シャンディアは髪の影で眼振を起こす中、判断を下した時の事を振り払って言う。
「コアが姿を露わにした時……
その身に淀んだ闇を払拭した上で、大地に帰してあげられればよかった…………」
けれどもコアが放出する苦痛は夥しく、ミラー族の力のみでは限界と悟ってしまった。
周囲は、彼等はどうしてもできなかった事を受け止めながら、静かに聞き続ける。
「抑えなければならない……
苦しみに吞まれたままのコアは必ずまた、最悪を起こす………」
皆は息を呑む。
「俺達が教わった神とはまた違うが、結局のところ…
そいつが人間に思うところがあった矢先、下した決断がこの有様か……」
グレンは言いながら、周囲一帯の漆黒の海に目を向ける。
どこにも大陸が無い、ただ黒いだけの世界に。
彼の重い声は特に、他の大人達の心の深いところまで落ちていく。
彼等は、この場にいる4人には知り得ない、広い大陸を浮かべる世界で生きてきた。
文明が発達し、研ぎ澄まされた知恵がみるみる科学技術を生み出し、進化し続けた世界。
生きる上での豊かさをより増幅させる為に、あらゆる手を尽くしてきた人類。
それを含めて生き物と呼ぶならば、元々、自分達も大地に守られてきたという事になる。
しかしそれに弄ばれ、捨てられようとされているのか。
「起こさせてはならん……
あんな事態は二度と御免だ」
スタンリーの張り詰めた声に視線が集まる。
「ただでさえ時が経った今でも苦労しとるってのに…
その悪魔はこれに満たされておらんとは、強情にも程があるってもんだ」
落ち着くようカイルに触れられた肩をそのままに、スタンリーはシャンディアを大きく振り返る。
「わし等は人間だ、お嬢さん。
その子等かて、何かあるにせよ所詮は人間なんじゃよ。
魔力も何も使えん、これは普通だ。
あんた等の務めが生き物を守る事だってんならどうか、頼むよ……」
殆どの者が、共に寄り添う存在を亡くした。
年老いた彼にも、愛する者がいた。
募る悲しみから這い上がり、変わり果てた街のほんの小さく残った欠片のような陸地で、崩れ落ちたあらゆるものを目にしながら生きている。
東の者と同様に、世を立て直そうと懸命だ。
あの日、最悪の篩にかけられても遺った、僅かな生命の内の1つとして。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




