(4)
4人の事を見るにしても、今は結界を張った影響で透視をするのが辛かった。
未来や過去を探る事もまた、僅かであれ力を消耗する。
また、襲撃される可能性も視野に入れ、力の温存をせねばならない。
「ここからの動きを話しておきたい……」
シャンディアが切り出すと、松明を握るレックスが船室を出た所に凭れ、耳を傾ける。
その後方からスタンリーもやって来た。
皆が話に集中し始める中、そっぽを向くジェドとシェナは耳だけを貸す。
「南から東へ戻る時に、動きを分けたい……」
力の込もったシャンディアの視線が、其々に向けられた。
「目的の奴のとこへ行くってか?」
ビクターは、海底に強制的に戻された大地の神、サタンと化したコアの話を思い出す。
「でも、あたし達は潜るのに限界があるわよ?」
振り向いたシェナは、潜水中の呼吸を懸念した。
コアが封じられる深海へ行くのに、残り僅かな酸素シリンダーでは間に合わない。
「その術は私がかける。
海中でも楽に動けるように」
「…………もしかして……魚になるの!?」
フィオの声に堪らず目を剥くジェド。
漁師達は、ビクターの歪んだ顔が何とも言えず笑った。
「まさかシャンディアと同じ姿にか?」
マージェスが言うと、ジェドは慌てて駆け寄る。
ジェドは、シャンディアを頭から足先まで舐め回すように見た。
真っ白な肌に靡く、鏡の鱗が光る腰巻き。
胸元も同じ鱗で覆われ、点々と反射するランタンの灯を揺らしている。
「……君の仲間も同じ見た目なのか?」
シャンディアは少々面白がるように微笑んだ。
「それは、その目で確かめて……
心配しなくても、貴方達を魚にはしないわ」
少し期待を抱いていたフィオとシェナだが、端の2人はホッとする。
しかしもし魚になれたのならば、鮫や鯱といった強いものがいいだろうと想像した。
「普段通りに過ごせる力を与える。
でも…直ぐでなくとも魔法は解けてしまう……
どうしても…今の私は弱っているから……
あまり時間をかけられない…」
シャンディアは俯き、暫し間を置く。
この魔術をかける以降こそ、最大限の力を出さねばならない。
幸い今、豹変した仲間の気配は無く、このまま無事に往復できれば良いが、油断は禁物だ。
彼女は、不安気に眉を寄せた顔を上げる。
「海底に張られた封印は今も、ー族の筆頭が番をしている。
彼はその務めに集中する事から、身動きが取れない………
だから、唯一動ける私と貴方達で、まずはミラ一族の力を取り戻したい……」
見張り台のカイルも耳を傾けながら、呆気に取られていた。
酷いものだろう。
またも恐ろしい路を彼等に渡らせるのかと、拳を握る。
フィオはシャンディアの話を聞く最中、彼女の髪飾りを気にしていた。
幾面も向き合う鏡の中に、数多の炎の光を揺らしている。
その中にはやはり
「海が見える……」
その呟きを聞いたシャンディアは飾りに触れると、そっとフィオに振り向いた。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




