(6)
シャンディアが視線を感じて振り返ると、誰よりも早く長老が見据えていた。
4人との会話に耳を傾けていたのだろう。
彼女が連ねた彼等の特徴は、老いた目に不安を滲ませる一方だった。
「………長老様…」
シャンディアの切り出しは、先程とどこか違って勢いがあった。
慎重な物言いは変わらずとも、強い意思が眼差しに光る。
「一族の復活が叶えば、後は我々だけで片を付けます……その為にはどうか、彼等の力を借りたいのです……」
「なあシャンディア」
長老が口を開こうとするなり横入りしたのはマージェス。
長老はその態度から何を察したのか、瞬時に彼を横目で睨む。
言い出す事は定かでないが、突破に割り込んだ彼の不穏な様子は良い気がせず、老いた厚い手をマージェスの胸に叩きつけて阻止する。
だが、彼は聞かずに前のめりになった。
「その子等に何かしらあるのは、分かった。
君等神々にとって、必要な存在である事も十分にな。
だが端から行かせるのではなく、まずは大人が前に出られんもんか?
人間界でこれは一般的な事だ、そうだろう」
他の漁師達や、付き添う大人達も頷く。
4人が空島へ昇ってしまった当時、海面に触れた雷に彼等はあっと言う間に消され、誰一人追う事ができなかった。
彼等を守ると言っておきながら海に出る事すらできず、ただ雨に打ち砕かれるままだった。
次こそ守りを硬くしておきたい。
そう願う幾つもの視線がシャンディアを貫く中、マージェスは続けた。
「命に代えてでも守るのは当然だ。
どうだ、真っ先に俺を最前線に立たせ
「黙れ」
太く放たれた長老の声にマージェスは漸く引き下がるも、小さく乾いた笑いを零す。
「………どうしてこの子達なんだ…?
可愛い…真っ直ぐ生きてるただの子どもだろっ……」
彼は、ずっと抱えている拭い難い物に駆られ始める。
焦燥する様子は周りを遠ざけ、不安に陥れた。
「ああ神さんも秤を狂わせたもんだっ!
……どうしてそんな綺麗な子達をっ……
相応しいやつが、もっといんだろうがっ……!」
マージェスは萎れていく声で小さく吐き捨てると踵を返し、部屋の奥へ姿を消した。
彼の一時期よく見られたこの精神状態は、空島の一件を耳にした夜も僅かに滲ませていた。
今回はその時とは比較にならない程に取り乱し、寝床から足を下ろして座っていたレックスも冷や汗を流している。
グリフィンは立ち去ったマージェスが気がかりで後を追おうとしたが、グレンはその肩を止めた。
シャンディアの大きく見開く眼を見た長老は、無言で首を横に振る。
彼女にそう指示するのには理由があった。
4人を確かに想った上での、マージェスの発言。
しかしその殆どは、感情から読み取るに、彼自身に向いている。
シャンディアには見えてしまう。
表情を強張らせ、無言を貫くのは大方、マージェスの嘗てを捉えたからだろう。
緊張と恐怖が入り混じる空気に、子ども達は縮み上がる。
静まった今、家へ帰らせようとアリーとケビンの母が誘導し始めた。
しかし、彼等もまた気になっている。
前にも見た事がある、マージェスのどこか苦しそうな面持ち。
それを見た他の大人達が焦る姿。
そしてフィオは、或いは4人皆がまた、いなくなるのか。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




