(4)
シャンディアが十分な力も自信も無いながら実行を急ごうとするのは、仲間の身を案じての事。
ただでさえ弱化した状態で上陸している現在、限られた魔力の配分を誤れば後に支障を来す。
それを考慮した動きを取るにはと、ふと右のこめかみに触れた。
「痛いの…?」
彼女は気にかけるフィオに首を横に振ると、胸の装飾に手を移す。
「飾りを失くしたの……
それがあれば、今よりまだ力が出せるのに…
見つからないまま…ここに来た…」
4人や子ども達は一斉に表情を変えた。
思い浮かべるものはただ1つ。
「待ってて!」
シェナはピンとくると、その場から激しく外へ飛び出した。
シャンディアは運ばれた海水を掬い、体を湿らせながら考えに耽る。
端からは、漁師達がスタンリーに南の位置を詳細に訊ねる話し声。
距離や時間、住民の数など、事細かに情報が聞こえるところ、ジェドがそっとシャンディアの前にやって来た。
「………悪い…さっき…」
それでもまだ、彼の表情は強張っている。
シャンディアはその言葉を否定し、怖がらせているのは自分であると告げた。
ジェド自身が持つものが何か、それもまた、彼女には分かっている。
分かってしまうからこそ、一刻も早く何とかしたい。
「南へは、一緒に行く方がいいわよね」
フィオがシャンディアに寄ると、ビクターが待ったをかける。
「どうなんだ?
漁船を襲った奴等はフィオを見てた。
君が言ったように、求められていたなら………
もっと何か起こりやしないか」
ジェドの目が揺らぐ。
フィオだけが漁船で聞きつけた人魚の“返して“と、シャンディアが長老に放ったそれとが被り、鼓動が速まる。
当時は海に返してという意味で捉えたが、先程の話の流れからだと、違うだろう。
「ここにいろっ」
ジェドが反射的に強くフィオの腕を掴んでも、彼女は目を尖らせて譲らない。
「何言うの?
力になるにはシャンディアについてかないと。
南が危ないのに」
足元に集まる子ども達は怯んだ。
3人が交わす視線が、どこか体をビリビリと刺激してくる。
「戦えるわ!空島でも乗り越えたじゃない。
大丈夫よ」
「それ!お前…いい加減よく考えて言えっ……」
「………だって…」
そう言いながら乗り越えてきた。
フィオにとって、その言葉はただのありふれた一言ではない。
だが聞いている側は今みたく、どこか事態を軽く捉えているように聞こえてしまう時もあった。
ジェドはこれまでも、そんなフィオを心配している。
その大切な言葉は海からも聞こえるなどと言うが、実際には誰も、それを聞いた事がない。
その代わり彼女が言う事で後押しされ、ここに立つ事ができているとも思う。
だからこそ、絶対に失いたくない。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




