(11)
シャンディアを見る目が鋭くなる漁師達や、ジェド。
張り詰めた空気は、床に座って集まる子ども達には窮屈でならなかった。
静かだというのに煩く感じてならない。
彼等は互いを見てから、奥の激しく揺れる暖炉の火に目をやる。
困った時や、落ち着きたい時はそうして安らぎを得てきた。
両親から教わったそれに、すっかり縋ってしまう。
「貴方も…よく気がつく……フィオは幸せ…」
シャンディアがジェドにかける声は静かで、優しかった。
しかし今度はビクターが目を見開き、その先を遮る。
「どうして名前が分かる」
ここまでまだ、誰もシャンディアに自己紹介をしていない。
また、誰かがフィオの名前を呼んでいた事も無い。
周囲は驚き、シャンディアに更なる疑いと警戒の目を向ける。
そこで1つ、彼女は力を見せた。
眼を閉じたかと思いきや、力強く見開き鏡面に変える。
皆がそれに声を漏らす中、彼女はビクターから流れるようにジェド、シェナ、後方へやられたフィオまでなぞり、再び瞼を下ろす。
「私達は海の神…空へは昇れない……
だからあの時…何もできなかった………でも
ビクター、ジェド、シェナ、フィオはそこへ行き…
その地の神々を救った………
怖かったでしょう……
あらゆる獣の血を浴びながら、剣や槍で戦った……」
緩やかな声と共に、シャンディアは眼を開いていく。
「帰還したその晩…
グリフィンと火を囲み…話していた……
失くした本を今度は…貴方達が作ると……」
どうして知っているのかと、4人は目を瞬く。
「空の異変を見て、
貴方達が戻って来る事が分かった……
私はそれを待っていた………
本当はその晩…会いに行きたかったけれど……
やはり怖かった……」
シャンディアはまた、昏い視線を落とす。
この僅かな時間に、4人が空島から帰還した夜の出来事を瞳に映し出した。
どうやら彼女の眼は、未来や過去を見る力があるようだ。
「まだ…その頃は仲間も無事で、
私も力があった………
一族の筆頭は否定したけれど……
自分達の力で、どうにか解決したかったの…」
フィオは反射的に長老から離れると、誰よりもシャンディアの前に出た。
小さくなるシャンディアの様子から、頑張ろうとしていた事が痛い程に伝わってくる。
フィオの接近に顔を上げたシャンディアは、声も無く驚いた。
目前の彼女の黒い瞳の奥に、美しい光が浮かんで揺れている。
「……どうか…どうか彼等の力を…
貸してはもらえないでしょうか…」
気付けば勝手に口が動いていた。
シャンディアの懇願は涙に変わり、傍に立つ長老を見つめる。
しかし彼は、首を縦に振る訳がなかった。
「……この子らは大事な家族…
もう危険に晒せんよ…」
「返して欲しいんですっ…」
シャンディアはとうとう声を荒げ、焦り始める。
やっと絞り出した、といったところか。
思い切った発言に身も声も激しく震え、先程よりもすすり泣く音が零れる。
「返してはもらえませんか…その子を…」
彼女が手を差し出す先を見て、一同は凍りつく。
フィオは後退り、喉を掻っ切られたように声が出ず、身を竦めて立っているだけで精一杯だった。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




