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 シャンディアを見る目が鋭くなる漁師達や、ジェド。

張り詰めた空気は、床に座って集まる子ども達には窮屈でならなかった。

静かだというのに煩く感じてならない。

彼等は互いを見てから、奥の激しく揺れる暖炉の火に目をやる。

困った時や、落ち着きたい時はそうして安らぎを得てきた。

両親から教わったそれに、すっかり縋ってしまう。






 「貴方も…よく気がつく……フィオは幸せ…」




シャンディアがジェドにかける声は静かで、優しかった。

しかし今度はビクターが目を見開き、その先を遮る。




「どうして名前が分かる」




ここまでまだ、誰もシャンディアに自己紹介をしていない。

また、誰かがフィオの名前を呼んでいた事も無い。

周囲は驚き、シャンディアに更なる疑いと警戒の目を向ける。

そこで1つ、彼女は力を見せた。






 眼を閉じたかと思いきや、力強く見開き鏡面に変える。

皆がそれに声を漏らす中、彼女はビクターから流れるようにジェド、シェナ、後方へやられたフィオまでなぞり、再び瞼を下ろす。




「私達は海の神…空へは昇れない……

だからあの時…何もできなかった………でも

ビクター、ジェド、シェナ、フィオはそこへ行き…

その地の神々を救った………

怖かったでしょう……

あらゆる獣の血を浴びながら、剣や槍で戦った……」




緩やかな声と共に、シャンディアは眼を開いていく。




「帰還したその晩…

グリフィンと火を囲み…話していた……

失くした本を今度は…貴方達が作ると……」




どうして知っているのかと、4人は目を瞬く。




「空の異変を見て、

貴方達が戻って来る事が分かった……

私はそれを待っていた………

本当はその晩…会いに行きたかったけれど……

やはり怖かった……」




シャンディアはまた、昏い視線を落とす。

この僅かな時間に、4人が空島から帰還した夜の出来事を瞳に映し出した。

どうやら彼女の眼は、未来や過去を見る力があるようだ。




「まだ…その頃は仲間も無事で、

私も力があった………

一族の筆頭は否定したけれど……

自分達の力で、どうにか解決したかったの…」




フィオは反射的に長老から離れると、誰よりもシャンディアの前に出た。

小さくなるシャンディアの様子から、頑張ろうとしていた事が痛い程に伝わってくる。

フィオの接近に顔を上げたシャンディアは、声も無く驚いた。

目前の彼女の黒い瞳の奥に、美しい光が浮かんで揺れている。






「……どうか…どうか彼等の力を…

貸してはもらえないでしょうか…」




気付けば勝手に口が動いていた。

シャンディアの懇願は涙に変わり、傍に立つ長老を見つめる。

しかし彼は、首を縦に振る訳がなかった。




「……この子らは大事な家族…

もう危険に晒せんよ…」



「返して欲しいんですっ…」




シャンディアはとうとう声を荒げ、焦り始める。

やっと絞り出した、といったところか。

思い切った発言に身も声も激しく震え、先程よりもすすり泣く音が零れる。




「返してはもらえませんか…その子を…」




彼女が手を差し出す先を見て、一同は凍りつく。






 フィオは後退り、喉を掻っ切られたように声が出ず、身を竦めて立っているだけで精一杯だった。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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― 新着の感想 ―
[一言] フィオは人魚だった!? 妙な共感能力はそういうことだったのですね。 フィオがこれから人魚とどう関わることになるのか楽しみです
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