(10)
「ええ!?なんでー?」
屋根を貫くようなケビンの大声に、他の子ども達は激しく肩を竦める。
その傍ら、シャンディアの純白の手が優しくフィオに伸び始めると、ジェドがフィオの前に大きく割って出た。
そのまま更に彼女を強く後方へ押し退け、その先にいた長老が咄嗟に受け止めると引き寄せる。
「特別って言いてぇのか…」
シェナはジェドの急な動きに身を強張らせているが、ビクターは小首を傾げ、何かに早まるジェドの肩に触れた。
ジェドは振り解こうともせず、その目はシャンディアから一切動かない。
先程からしている何とも言えない胸騒ぎの理由の端を、捉えたような気がしてならなかった。
「俺達を襲った人魚は、こいつばっか見てた。
本当の目的は何だ……
君も、本当は血が欲しくて上がってきたんじゃないのか」
「ジェド」
シェナは彼の袖を引いて落ち着かせようとするも、ジェドは構わず更に前のめりになる。
「友達だ…やらないぞ…」
空島を呪った魔女は、自分達をやたらと求めていた。
女王リヴィアもまた、自分達には力があると言い残した。
しかし詳細までは聞いておらず、自分で聞こうとしなかった事実もある。
それは、彼女がくれた最後の言葉から、ありのまま生きていていいと捉える事ができたからだ。
自分達の過去は曖昧で、余所者とも言える。
だがそれを言うならば、ここにいる大人達も同じ余所者の集まりだ。
惨事を乗り越えた末、互いに手を取り合う中で新しい家族として成立し、今日まで生きてきてこられている。
そう、幸福感を得られているのだ。
ならば、まずはそれでよかった。
リヴィアが言うように、何か力はあるのだろう。
彼女の手と自分達の手が合わさる事で、失われたシェナの声や、グリフィンが戻ってきた。
けれども、自分達は決して神でも魔法使いでもなく、人間だ。
特別という枠を作られ、妙に強調される事は誰も好きではないだろう。
周囲はそれをせず、自然に接してくれている。
時と経験によって、大切に且つ慎重に築き上げられた関係に、歪な風を通すような事をしたくない。
そこへグリフィンの声がし、ジェドは漸く振り返った。
止まらぬ胸騒ぎがもたらす恐怖を感じるジェドを見つめるグリフィンは、彼の心境を察している。
「まだ、話があるみたいだ。最後まで聞いてごらん」
グリフィンもまた、どこか身構える様子があるものの、眼差しは穏やかだった。
口を閉じたジェドはまだ、シャンディアに横目を向けて警戒する。
「焦るなジェド…」
合わさるカイルの発言はジェドに対してよりも、己自身に言い聞かせているようだ。
背後でフィオを引き寄せた長老は尚も、シャンディアを真っ直ぐ見据えている。
シャンディアは、浴びせられる数々の視線を何も言わずに噛み締め、眼を離さない。
まるで、この状況が生まれる事を分かっていたかのように。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




