(2)
その様子を見守っていた4人や長老にアリー、そして漁師に子ども達も、人魚の突然の動きに肩を大きく弾ませる。
「あっ…ああっ!」
寝床に横たわっていた少女と化した人魚は、覚醒していながらもまだ、どこか意識が朦朧としているようだ。
ふらふらと上体を起こすと、辺りに視線を激しく泳がせる。
真っ白な両手は何かを掴もうと、必死に宙を掻き続けた。
「熱い!熱い!」
途轍もなく喉が渇き、肌が温か過ぎる。
すっかり乾いてしまった体を両手で抱え込み、足を縮め、バタバタと寝床で藻掻き苦しむ。
「あかいぞ!?」
寝床の足元にいたケビンが叫んだ。
純白をした足は、徐々に赤みを帯びていく。
熱いと嘆き続ける中で生じるそれを例えるならば、湯に投げ込んだ蟹か。
やはり人間ではない故、同じ寝床では酷だったのだろう。
潤いを求める様子を窺えば、泪すら乾き、苦しむ声はまるで襲撃してきた人魚と何ら変わらず、周囲はますます焦った。
「これを!」
アリーは湿らせた大きな布をケビンの母に渡す。
火が轟々と焚かれるこの場は、人魚にとっては拷問だった。
湿る布では間に合わず、寝床で暴れる彼女は止まらない。
「水!水だ!」
ビクターが探しに奥へ向かおうとするところ、早くも先に気が付いていたシェナが、カップに水をなみなみ注いで持ってくるのだが
「もっといる!
足見ろ、このままじゃ蒸し上がっちまう!」
ジェドが声を上げた途端、人魚は更に、干上がるように縮んでいく。
「海よ!海に戻して!」
フィオが叫ぶ傍ら、グレンとカイルが軽々と人魚を外へ運び出した。
皆が大慌てで外に飛び出すと、ケビンの母が引き留める。
「先にこれを!」
海へ行くまでの繋ぎだと、彼女は桶いっぱいに汲んだ水を人魚の頭から思い切りかけた。
運搬される腕の中で辛そうに眼を閉じていた人魚は、水を浴びせられるなり灰色の大きな眼を光らせると、口を開け、身や髪を伝う水を飲もうとする。
「喉乾いてるんだわ!」
シェナが真横に来ると、持っていた水が入ったカップを渡してやる。
人魚は迷いなくそれに飛びつくと、大きく喉を鳴らしながら一気に飲み干した。
「…………良い飲みっぷりだな…」
グレンはつい呆気に取られて呟く。
カイルとグレンの肩を掴んでいた人魚は、コップを落とすと力尽き、大きく一息吐きながら脱力した。
急に増した体重に2人はバランスを崩し、彼女を一度腰から着地させる。
「俺が足を持つ」
海へ運ぶべく、マージェスが加わろうとした。
だが、その声に気付いた人魚は眼を剥き、声も無しにマージェスの接近する手を遮りながら、酷く険しい顔で首を振る。
あまりに拒絶する様子に、彼はなんとなく胸が痛んで暫し立ち尽くしてしまった。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




