表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/187

(5)




第三話 鋒(1)


あらゆる者や景色を映し出していた双眼は、ふと、元の濃い灰色に返る。

漸く、意を決した。陸に上がる。







 ビクターは、急に独り静かに慌てるフィオが心配になった。




「どうした」




彼女の咄嗟の動きに、後方で木に凭れて座っていたジェドや、隣で地面に座り込んでいたシェナも、同じ方角を見ながら立ち上がる。




「………何か来るんじゃないかしら…」




3人は、フィオの言葉に目を合わせた。

漁船では人魚を気にかける発言をしたり、返してやろうと慌てたりと、彼女は今日、やけに気になる事ばかり言う。

足元の子ども達もまた同じように海を振り返るが、傍に立つ背の高い4人の様子を、そう真剣に捉えてはいない。




「どーこーだーよー?」



「なにがくるの?」




ケビンとウィルは彼等よりも前に出ると、浜に向かっていく。




「おい待て!」




ジェドは2人に反射的に放つが、そんな声など聞く様子など微塵も無く、そのまま木陰の間を抜け、波打ち際の方にまで行ってしまう。






 ケビンとウィルは行き着いた先で、何も無いではないかと身振り手振りで訴えると、ここまで追い掛けてみろと悪戯な顔をした。

2人はそのまま、明るい陽射しの中で真っ白な砂を激しく蹴り、コロコロとした笑い声を上げる。

残るクロイとリサも、ついついはしゃぎながら彼等の元に向かってしまった。






 空は微かにオレンジに染まり始め、鋭い陽光が目を容赦なく刺激する。

後から合流したクロイとリサは、小さな手で目に影を作って振り向いた。




「なんにもいないわよ、フィオ?」




クロイが言う横でリサも頷く。

本当に何も無い事を証明してやると、ケビンは石を幾度となく海に投げ始めた。

重さに左右される様々な水の音が、打ち上がる波の音に楽し気に合わさる。

水切りを教えてと言う彼等の大声が、未だ林の入り口で立ち尽くす4人に飛んできた。






 「さっきから、あんま瞬きしないのな…」




不安気にフィオを見ていたビクターが訊ねる。




「目を閉じたくない…」




彼女は目を擦り、振り向いた。




「でも目ぇ赤いわよ?

瞬きなんて、閉じる内に入りやしないじゃない」




その時、シェナの声に覆い被さるように子ども達の悲鳴が上がった。




「「なんかきたーーーーーーー!」」



「「!?」」




先程までの穏やかな波とは打って変わり、唐突に打ち上がる大きな波から、彼等は一目散に引き返してくる。

皆は何事かと目を見張り、そこに釘付けだ。




淡い夕陽の光を受ける水面は、白銀の細やかな光を波に乗せて押し寄せる。

激しい潮の音はまるで、岩を打ち砕くようだ。

それと共に、水中からぼんやりとした影が浮かび上がると、浜に力強く何かが放り出され、転がった。




挿絵(By みてみん)




「「人魚!?」」



「「きゃあああああ!!!」」




子ども達は4人に飛びつき大慌てするも、恐る恐る打ち上がったそれに注目する。




「ここにいろ!」




ジェドは子ども達の肩を掴んで聞かせると、真っ先に走った。

3人も、その後を追う。






 波打ち際で激しい飛沫(しぶき)を上げながら、4人が人魚を囲んだ。

俯せになっており、息をしているのが背中の上下の動きで分かる。

真っ黒な長髪は浜に広がり、顔の殆どを覆っていた。

体まで包み隠している隙間からは、真っ白な肌が垣間見える。

だがそれよりも目を奪われたのは、銀の鱗だ。




 ビクターはそっとしゃがむと、その下半身に自分の顔が小さく大量に映るのを捉える。




「鏡…」




それを聞いたジェドが同じように膝を付くと、人差し指で鱗を突いてやる。

硬い感触はガラスと同じで冷たく、陽光を反射させて目が眩む。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ