(2)
長老は暫し、酷く汚れた4人に目を這わせた。
彼等もまた、妙な胸騒ぎがしてならない様子が、見ていて何となく伝わってくる。
フィオに関しては、顔に随分と不安を滲ませ、目を落としていた。
この子達は、どこか違うだろう。
しかしそれでも、同じであっていい。
これまで通り自然に生き、引き続き家族だ。
だからこそ、放ってはおけない。
彼等を想わなかった日など無い。
長老は、白い前髪の隙間から覗く青い目を震わせる。
過ぎる、多くの不確かが淀む4人の過去はまるで、完成するには程遠いパズルのようだ。
真上から射す陽光は、ジリジリと肌を焼いてくる。
時折吹く穏やかな風は、足元の白砂を低く巻き上げ、立ち尽くす多くの足を覆い隠した。
岩を打つ、不安定な波。
弾く飛沫は煌びやかに、また、返る。
シェナはふと、陽を受けて光るそれらを見て、昨日見つけた装飾の輝きをそこに重ねた。
ジェドもまた、網や獲物に絡む鱗を思い出している。
ビクターは、傍の3人を呆然と眺めていた。
何か変化を見せていた彼等に、あまり力を尽くせなかったのではないか。
そう思いながら何となく、右目に触れる。
時に、奇妙なものを捉える事ができていた筈だというのに、今日は全く役に立たなかった。
もっとも、意識的に操れる訳ではないのだが。
こんな時に限って、その不思議は起きなかった。
それがどこか歯痒く、普段の調子を取り戻せない。
「体を洗え…今日は、無理するな……」
長老は漸く4人に柔らかく告げると、カイルとマージェスを振り返り、後で話を聞くと言い踵を返した。
彼はそのまま、南の老人と共にレックスの元へ向かう。
島で留守番をしていた者達が、資材と道具を抱えて漁船に集まってきた。
修理が始まる一方、マージェスは深い溜め息を吐く。
疲弊しており、頭が回らない。
この場は一時、仲間に託して立ち去る事にする。
カイルもその後を追うところ、4人の傍へ近寄り、其々の頭を撫でながら微笑んだ。
「あまり気に病むな。大丈夫、だろ?」
言い終わりには、フィオに少し屈んで覗き見る。
それは、彼女がよく言う誰もが知っている呪い言葉だが、今は彼からそっと添えるように心に植えつけた。
立ち去るカイルの背中を静かに見ていた4人の横から、遠目で状況を窺っていた子ども達が駆けつける。
「ふいたげるわ!」
「かあさん、あたらしい ぬの つくったから
もってくる!」
「あっちの しまで みつけたやつ、みしてやるよ!」
「それ、もってあげる!」
4人が大好きな彼等は、口々に慰めの言葉をかけながら手を取り、導いた。
いつも、両親や周囲の皆が自分達にしてくれるように。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




