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 フィオが船室の窓を覗き込んだ先には、カイルとマージェス、ジェドが目にも留まらぬ速さで人魚を叩きのめしている。

マージェスの苛立つ怒号が再び聞こえた時、それに合わさるように、ジェドが1体を彼に滑らせると、人魚はそのまま投げ出される。




中でもジェドの身の熟しが、この上なく素早い気がした。

しかし、南から来た老人が言う彼の目の変化は、この位置からでは捉えられない。

フィオはじっとジェドを見つめながら、微かに頬に付着した人魚の血を拭う。






 彼は今、ナイフから槍に持ち替えている。

人魚が剥き出す爪や牙を、誰よりも余裕を持って、華麗に躱し続けていた。

体力が落ちている様子は全く無く、ただ只管武器を操り、時に手足の攻撃が加わる。

隙をほぼ確実に突く動きはまるで、相手の次の出方を予測できているように見えた。




 その動きに、フィオはハッとする。

空島で、魔女の下部を倒す際にも見られたものではないか。

ただ倒すのではなく、殺意が滾る獰猛(どうもう)な動き。

あの時ビクターが彼を殴り、動きを止めていなければ、何が起きていたのだろう。






 フィオはふらふらと首を振り、ドアノブに手を掛けた。

その時と同じ状態ならば、このままだと彼が何かに呑まれてしまうのではないかと、怖くなる。




「嬢ちゃん止めとけ!中にいろ!喰われちまう!」



「でも友達が危ない!」




 老人の気にかける声も他所に、彼女はドアを開けてジェドを呼ぶ。

船首の傍まで攻めている彼は遠く、顔の様子が見えない。

更に名を呼んでみても、真横から飛び込む人魚の騒音や、武器が宙を掻く音に消されてしまう。




 フィオに更なる不安が襲い始めた。

この状況だからではなく、もし彼にあの時と同じ異変が起きているならば、こちらの声が届きにくくなっているのではいか。






 1人ここにいる訳にはいかないと、彼女は船室にあった予備の槍とナイフを取る。




「嬢ちゃん無茶だ!」



「私だって戦える!出てきちゃダメよ!」




そう言って飛び出した時、足元に大きな影が揺らぐ。

見上げたそこには、まだ風に靡くシェナがいた。

フィオは迷いを見せ、ジェドと彼女に視線を往復させる。

しかし、機会を捉えたビクターが即座に武器を仕舞い、展望台の柱の(ふもと)にきて周辺を素早く確かめ始めた。






 ビクターは遥か高い頭上に揺れるシェナを見ながら、別のロープを探し当てる。

それは、其々の帆と帆桁(ほげた)を固定しているものだ。

切れば、それらと入れ替わりにロープが上昇するだろう。




「放すな!」




彼はシェナに吠え飛ばすと、ロープの高い位置に飛び付き、刃を光らせる。




 「止せビクター!」




咄嗟に戸惑いの声を上げるマージェス。

それにはカイルも目を剥いた。




「後で直す!全員頭引っ込めろ!」




ビクターは周囲一帯に怒鳴ると同時に、掴んだロープの根元を切断。






 マージェスやカイル、後からジェドの叫び声まで混ざる中、ビクターは風を切るように展望台まで急上昇。

入れ替わりに、真下には一部の帆と木材が激しく落下。

強い衝撃に新船の床は凹み、船体が急激に傾くと、船縁や船室の端まで皆が転がる。




「この阿保!」




しかしマージェスは、落下した帆や帆桁に更に度肝を抜かれた。

数体の人魚が下敷きになり、唸り声を上げている。

船縁まで激しく転がっていたジェドがそれを目撃し




「やり。纏めておじゃんだ」




だがマージェスは、焦燥混じりの怒号を放つ。




「壊すなっつったろう!」









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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