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 漁船内は人魚の狂気と血に汚れ、破損が次々目立ち始めた。

凍てつくような風も他所に皆、汗ばみながら肩で息をする。




ジェドは体力も忘れ、未だ槍を振り続けて人魚を弾き返していた。

その傍ら、ビクターもナイフを口に咥え、一時的に槍に持ち替え、高速に風を切る音を立たせている。

そうしながら、頭上で不思議に靡くシェナを気にしていた。

救助に向かう機を探っている。




 フィオは、柱に打ちつけられたままの人魚が随分と気になった。

巨大で鋭利な尾鰭は、まるで列を成す刃物か。

しかしそれよりも目を奪われたのは、自分の顔を大量に映しだす鱗。

その全ては紛う事なき鏡。

この状況でありながら、それらを見てふと思い出す。




「飾り……」




昨日、シェナが漁で引き上げた星を思わせる尖った装飾と、人魚の鱗が類似しているように感じた。






 「ぼさっとすんなフィオ!離れてろ!」




ジェドの怒号は、つい棒立ちになる彼女を揺さぶる。




 彼女が気がつくや否や、向かいから人魚が苦痛の悲鳴を放ちながら襲撃してくるところを、ジェドの飛び蹴りで危機一髪免れる。

人魚は激しく新船の床を転がり、喘鳴(ぜいめい)を含みながら泡を流し、2人を震える眼で睨む。




「ごめ



「来い!」




フィオが謝るよりも先に、ジェドは彼女の腕を掴むと、船室へ向かって駆けた。






「さっきからこいつ等、お前ばっか見てる!

隠れとけ!」




どういう意味だと尋ねる前に、マージェスがそれを聞きつけ眉を顰めた。

舞い込む人魚達は確かに、船室の前に移動したフィオに顔を向けている。

焦点が定まっていない歪なオレンジの眼も、彼女を捉えようと動きが変わる。




 船室の扉を開くなり、ジェドは強引にフィオを押し込んだ。




「入ってろ!」



「でも!」




フィオが拒む隣に、例の南の島から来た老人がおり、驚いた。

すっかり忘れており、2人の動きが一時止まる。

彼は、じっと見つめてくる2人に騒ぎ立てた。




「なんちゅう動きだ!

お前さんらやっぱ、海賊じゃろ!?」



「一緒にすんな!

じいさんそこにいんなら、この子頼んだ」




ジェドはフィオを老人に託し、戸を激しく叩きつける。

それに合わさるように、彼女のジェドの名を呼ぶ声が切られた。






 何が海賊だ。

こちらは空に昇り、魔女と戦った身である。

海に留まったままの集団と同じにしないでもらいたい。

ジェドは目を尖らせ、次々飛び込む人魚の群に再び立ち向かった。






 船室ではまたも、老人が目を剥いてフィオに迫っていた。




「あの坊主の目ぇ、どうなっとる!?」




フィオは何の事かと首を傾げる。

その時、足元から振動を感じた。

下にある船体の扉が開いたのだろう。

グレンとレックスが間も無く、ジェットスキーで出動か。




 それを耳にした後、フィオは知らせてくる彼に不安気に尋ねる。




「おじいちゃん、彼の目が何?」



「見えんかったのか!?

灰でも被ったような色じゃった!」




一体何を言うのかと、フィオは船室の窓に張り付きジェドを探す。

彼の目は、黒い筈だというのに。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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