(11)
漁船内は人魚の狂気と血に汚れ、破損が次々目立ち始めた。
凍てつくような風も他所に皆、汗ばみながら肩で息をする。
ジェドは体力も忘れ、未だ槍を振り続けて人魚を弾き返していた。
その傍ら、ビクターもナイフを口に咥え、一時的に槍に持ち替え、高速に風を切る音を立たせている。
そうしながら、頭上で不思議に靡くシェナを気にしていた。
救助に向かう機を探っている。
フィオは、柱に打ちつけられたままの人魚が随分と気になった。
巨大で鋭利な尾鰭は、まるで列を成す刃物か。
しかしそれよりも目を奪われたのは、自分の顔を大量に映しだす鱗。
その全ては紛う事なき鏡。
この状況でありながら、それらを見てふと思い出す。
「飾り……」
昨日、シェナが漁で引き上げた星を思わせる尖った装飾と、人魚の鱗が類似しているように感じた。
「ぼさっとすんなフィオ!離れてろ!」
ジェドの怒号は、つい棒立ちになる彼女を揺さぶる。
彼女が気がつくや否や、向かいから人魚が苦痛の悲鳴を放ちながら襲撃してくるところを、ジェドの飛び蹴りで危機一髪免れる。
人魚は激しく新船の床を転がり、喘鳴を含みながら泡を流し、2人を震える眼で睨む。
「ごめ
「来い!」
フィオが謝るよりも先に、ジェドは彼女の腕を掴むと、船室へ向かって駆けた。
「さっきからこいつ等、お前ばっか見てる!
隠れとけ!」
どういう意味だと尋ねる前に、マージェスがそれを聞きつけ眉を顰めた。
舞い込む人魚達は確かに、船室の前に移動したフィオに顔を向けている。
焦点が定まっていない歪なオレンジの眼も、彼女を捉えようと動きが変わる。
船室の扉を開くなり、ジェドは強引にフィオを押し込んだ。
「入ってろ!」
「でも!」
フィオが拒む隣に、例の南の島から来た老人がおり、驚いた。
すっかり忘れており、2人の動きが一時止まる。
彼は、じっと見つめてくる2人に騒ぎ立てた。
「なんちゅう動きだ!
お前さんらやっぱ、海賊じゃろ!?」
「一緒にすんな!
じいさんそこにいんなら、この子頼んだ」
ジェドはフィオを老人に託し、戸を激しく叩きつける。
それに合わさるように、彼女のジェドの名を呼ぶ声が切られた。
何が海賊だ。
こちらは空に昇り、魔女と戦った身である。
海に留まったままの集団と同じにしないでもらいたい。
ジェドは目を尖らせ、次々飛び込む人魚の群に再び立ち向かった。
船室ではまたも、老人が目を剥いてフィオに迫っていた。
「あの坊主の目ぇ、どうなっとる!?」
フィオは何の事かと首を傾げる。
その時、足元から振動を感じた。
下にある船体の扉が開いたのだろう。
グレンとレックスが間も無く、ジェットスキーで出動か。
それを耳にした後、フィオは知らせてくる彼に不安気に尋ねる。
「おじいちゃん、彼の目が何?」
「見えんかったのか!?
灰でも被ったような色じゃった!」
一体何を言うのかと、フィオは船室の窓に張り付きジェドを探す。
彼の目は、黒い筈だというのに。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




