(6)
視点は 漁船チームに変わります
突如吹く風は氷の寒さだ。
シェナは身震いし、辺りを見渡す。
(違う……)
いつもと違う空気に、この妙な感覚は何かと、恐怖した。
「レックス、早く引き上げよ!」
「まだ網上げてないぜ」
「変よ何だか。寒過ぎる!」
落ち着かないシェナの言う通り、確かに寒さが急変している。
レックスは小首を傾げ、なんとなく空一帯を見渡した。
嵩を増す雲は、来た時よりも濃さを増している。
嵐がくるならば雨の匂いがしているだろうが、それはない。
雷雲かと目を凝らし、シェナが言う変とやらを探り続けた。
そして
「……何だ…この雲は」
2人がいる展望台の中央には柱がある。
レックスは雲の異変に気付くと、シェナとは反対側の位置に素早く回り、上空に目を急速に這わせた。
その動きにシェナも見上げ、目を見開く。
「レックス!こっちとあっちに、同じ雲がある!」
彼は雲から水平線に視線を落とし、ぐるりと見回した。
「岩が同じだ…
シェナ、下りて船室にいろ!マージェス!」
すぐ下には、南の島からやってきた老人のボートを引き上げる最中の、マージェスとフィオ。
2人はレックスの叫ぶ様子を仰いだ。
「引き上げだ!周辺がおかしい。
同じ景色が並んでやがる!」
「ああ飲み過ぎか……酒はまだまだ安定せんな」
レックスの不思議な一言をそう簡単に理解できる筈もなく、マージェスは溜め息混じりに、昨夜の会食を思い出しながら呟いた。
だがシェナが網を伝いながら、声を必死に張り上げる。
「フィオ!同じ雲と岩が並んでる!早く皆を上げて!
魚なんて後よ!」
フィオは船縁に飛びつくと、すっかり真っ黒になった波打つ大海原を睨んだ。
その後、真反対の船縁に駆け、比較するように目を凝らす。
その時、瞬きを忘れて観察に集中していたせいか、目が乾燥し、自然と瞼をきつく閉じた。
「………?」
景色が閉ざされたそこに、空島でも経験した目の震えを感じた。
みるみる波紋を広げながら、視界が揺れる。
(影……?……あっ!)
フィオは目を見張ると、咄嗟に元いた位置に戻る。
そこには南から来た老人のボートが上げられ、船内に入れ込むところで停止していた。
下のフロアからは、海から上がった者達の声が聞こえ始め、間もなくこちらに顔を出す頃か。
「何か来るわおじさん!影よ!影が沢山見えた!
船を出して!」
シェナと同じように慌てるフィオに、マージェスが顔を歪める。
上では、それを聞きつけたシェナとレックスが、更に周辺に注意を払う。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




