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(3)




 展望台に登ったシェナは突如、身震いする。

急に風が冷たくなり、寒さも増した。

厚く嵩張る雲の流れも早い。

何だか圧迫感がある空が妙でならず、彼女の肌は粟立った。




昨日までと違うこの感じは、何か。

まるで空島に行く前の異変に似ていると、レックスに話す。

彼もまた、寒がっている彼女を自分に引き寄せながら、一帯をぐるりと見渡した。

そこに




「何だあれ……見えるかシェナ」 



「…………ボートじゃないの?

……誰か乗ってる!」




シェナはレックスから離れると、展望台の縁に身を乗り出す。






 数十メートル先に確認できる黒い物陰は、人が乗っているボートだ。

大きさからするに、4名程の乗船が可能か。

初めて見る別の人間だと察するが、この漁船は今日も、いつもと変わらない位置に来ている。




誰かが現れるにしては、おかしい。

ここから一番近かったのは、失われた西の島と、子どもがよく遊びに出かける小さな孤島だけなのだから。




「ん?ねえ、手ぇ振ってない?

おーーーーーーーーい!」




甲高い声でシェナが手を振り返すと、身を貫くような冷風がひと吹き。

展望台の2人は、咄嗟に縁から身を引いた。








 真上の様子を聞きつけたグレンが、2人の視線の先を確認する。

騒ぎを聞きつけたマージェスとフィオも、足早に船室から現れた。




「ひいい寒っ…何だ急に」




マージェスがグレンの隣で肌を擦りながら、展望台の彼等の声の先に目を凝らす。




「人だ。何か言ってる」




船縁から様子を見て呟くグレンの脇から、ぐいとフィオが横入りし、身を乗り出した。




「まぁ、おじいちゃんよ?」






 ポツンと佇むそのボートには、1人の老人がこちらを向いて手を振っている。




「おーーーーい!すまんが人を探しててな!

親子見とらんか?」




格好はよく似ているが、少し違うのは良い防寒具を着用している事だ。

それにボートの質も良い。

どこの者だろうかと、皆は老人に目を這わして釘付けだ。






 マージェスが船首まで駆け寄った時、老人との距離は、少々声を落としても聞こえる程度になった。




「どっから来た!?

ここらに島なんか無いだろう!?」



「わしゃ南から来た。

まさか東のモンか!?本当にあったとは!

それよりうちの島の親子がおらんくなった。

考えにくいが、ここらで見とらんか?」






 「南の島って…

そりゃよくある常夏を想像しちまうな」




レックスが展望台で呟きながら、シェナと共に老人の話に耳をすませた。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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