(1)
鋒と読みます
文字通り 多くの「先端・刃先」が登場します
本部はプロローグを振り返る形で 新たに進展します
闇夜のような海底には、光一つ届かない。
その者は気泡の音に包まれながら、寂し気に佇んでいる。
刺さるような水温に震えながら、独り苦しんでいる。
どうしても躊躇ってしまう。
あの子達が空島から戻った、あの月夜すら。
変わらず、同じ様に躊躇い逃げてしまった。
あの子達は、どうであれ人間だ。
なのに、再び縋ってよいものか。
否、もうその様な事は言っていられない。
このままでは、一族が滅んでしまう。
その果てに見る未来が恐ろしく、目を背けた。
嘗て起きた大惨事。
滅びゆく人間の前にようやく姿を現した巨人だが、その心に募る苦痛は抵抗力を増し、最早、今のミラー族の力だけでは止めきれないだろう。
気泡一つ捉えられない深海の闇をぼうっと灯す純白の肌は、鏡の人魚の存在を際立たせた。
鋭利な尾鰭は刃の羅列の様で、揺れる度に黒い長髪が垣間見える。
飾り気のない髪に触れては、哀愁に満ちた顔を覆った。
力の源を、失くしてしまった。
震えるかぼそい手は、魔力の減少を示している。
一族が脆くなりゆくせいで隙が生じ、人間を再び危機に晒してしまった。
あの子達が空から帰還したとはいえ、その地を乱したあの蛇は巨人による呪いに過ぎなかった。
“シャンディア……あの子に……人間に告げろ……”
再び、一族の筆頭の声が過る。
呪いで半壊しても尚、行く末に抗い続けている。
その身に残された僅かな魔力を絞り出し、封印は維持されていた。
だが、その腕もじきに折れるだろう。
このまま封印を砕かれては、神々を含め、生物は抹消されてしまう。
最悪を回避するために今こそ、血を受け継ぐ者が必要だ。
“コアに纏わりつく、数多の……
堆積した辛苦、憂いを払拭せねばならない……
行け……行ってくれ……”
鏡の人魚は独り、身震いする。
顔をようやく上げては、暗い眼差しを潤わせた。
鏡と化した双眼に映るのは、晴れ間の下で笑い転げる、ずっと見てきた四人の姿。
先程、あの子はこちらを見た。
もう一度、もう一度だけ振り向いてはもらえないだろうか。
鏡の双眼はふと、元の濃い灰色に返る。
ようやく、意を決した。
我ら神は、それでも必要なのだ。
先代が遥か遠くから指し示した、この手には及ばない人間の力が。
髪につけていたであろう飾りを
失くしたそうですよ
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代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




