(1)
ここからの「潜」は文字通りです
本章の終盤で 入り口を開き
閉幕と共に 入り口を閉じます
東の島は、静けさが妙に籠っている。
そう感じるのは、今も堅く下ろされている鏡の帳の影響か。
とは言えそれ以外に変化はなく、闇夜にただ、火を点々と浮かび上がらせているだけだ。
黒い波は絶え間なく、岩を不安定に打ち続けている。
外側からも、内側からも、互いに存在を眩ませている今、人気があっても物寂しさが後を絶たない。
浜に腰掛けていたグリフィンは、松明を脇に、シャンディアの言葉や、秘められた謎を血に通わせる4人を思っていた。
砂に埋もれた足が炎に照らされるところから、何もない宙を這って空を仰ぐ。
悪夢のような空島の出来事を、忘れた事はない。
忘れられる筈はなく、忘れたいと思った事もない。
この崩壊した世界に残り、尚も脈打ち続ける魂の存在を、多く知る事ができたのだから。
生き永らえている理由が奇跡以外にあるとすれば、何か。
それが象られる時が来るのかは、分からない。
だがこうしていられる間は、感じたものに向き合い、時折、今のように戦いながら大地を歩もう。
その大地と言えばだ。
それが怒る要因が何かを探る度、目を曇らせる。
厚い雲に覆われた夜空は素っ気ない。
いつもなら、神々の眼を思わせる星々が瞬いているというのに。
「……なぁ……見てるのか……」
無意識に溢れた声に答えるように1つ、遠い空で何かが光ったような気がし、目を凝らす。
だが違った。
松明からの火の粉がただ、舞い上がっただけだ。
地上にはない美しい星彩や月光は、安らぎを齎す。
それが無い今、島ごと昏い世界に陥れられているようで、溜め息と共に肩を落とす。
漁船が発ってから長い。
彼等の戻りを気にかけながら、留守番する者は早めの夕食を終え、出迎える準備を整えていた。
どうか無事に帰還できるよう、先程から拳に力を込めながら強く祈り続けている。
独り、無の時間を過ごした後、端の松明を引き抜き立ち上がった。
「ここにいたの」
驚かせるような事の無い、消えた蝋燭の煙を思わせる柔らかな声。
心配でならない感情が滲んでいながらも優しいアリーの声は、弱々しい潮風に運ばれてきた。
「子ども達が探しに出ようとするものだから……」
間を置いた彼女は、肩越しに振り返ったまま無言で立つグリフィンに、大丈夫かと気にかける。
松明に揺れる俯く彼の顔は、恐ろしいものではないが、不気味だった。
消滅した西の島から這い上がった者。
彼もまた4人と同じ、旅の者としての顔があった。
ただの島の大人としてではなく、教師としてではなく、体を張って戦った者が持つ用心深い人間の顔を。
「ああ……少し、思い出してただけだ……」
そして微笑むそれもまた、いつも通りだ。
4人に似て、心を少しばかり隠すのだった。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




