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2

 買い物を終えて寮の部屋に戻ると、まず手を洗い、それから奥の部屋に向かった。1Kの八畳。元々二人部屋なので二段ベッドと二人分の机がある。

 益田は一段目のベッドのそばに屈んで声をかけた。

「ただいまぁ。……具合どう?」

 頭から毛布にくるまっていた同居人は、ピクリと反応して器用に顔だけ見せた。目がとろんとしている。眠りから覚めたばかりというのもあるが、昨日から熱を出しているせいでもある。

「ごめんね、一人にしちゃって。明日から休みで、ずっといられるから。……ご飯食べれそう?」

 布団を被ったままの同居人は少ししてからコクリと頷いた。

「すぐ支度するね」

 毛布の中に手を潜り込ませて頭を撫でると、心地よさそうに擦り寄せてくる。

 ……ああ、可愛い。

 益田は台所に行って、レトルトのお粥を器に半分あけた。彼は食が細い。

 ――誰にも知られちゃいけない秘密。

 そもそもこの部屋には益田しか住んでいないことになっている。益田自身、まさかこんな形で秘密を抱えるとは思わなかったし、今でも戸惑いと漠然とした不安が胸の中で渦巻いていた。

 きっとこれは、隠し通さなくてはならない。

「起きてー。ご飯だよー」

 レンジで温めたお粥とスポーツ飲料の注がれたコップを持って、再びベッドへ戻る。布団の主が、もぞりと起き上がった。毛布が頭からずり落ちる。

 すると、ぴょんと立ち上がった、



 猫耳。



 ――猫耳である。銀髪から生えた、滑らかな毛並みのこれまた銀色の猫耳である。

 …………これを見る度に、「俺の頭はおかしくなったんだろうか」と毎回思う。

 思わざるを得ないと思う。だって。

 猫耳。

 おかしい。有り得ない。

 何度となく頬を抓った。痛かったから夢じゃないんだと思う。偽物じゃないことも何十回と確かめた。触ったら温かいし、毛並みの下には皮膚があったし……それに、ピョコピョコ動いた。

 猫耳と、尻尾。それ以外は人間だ。

 あどけなさを残した少女のような可憐な顔立ちに、華奢な身体。益田の身長は一七六センチぐらいあったと思うが、彼はそれより頭一つ小さい。ただ、髪は銀髪だし目に至っては綺麗な翠色。

 まるでコスプレか、遺伝子操作か何かしてカスタマイズされたみたいな、整い過ぎて不自然さえ感じる容貌だ。年齢は益田達と同じくらいかもしれない。

 ……しかし猫耳少年は会った当初、自分の年齢はおろか名前すらも答えられなかった。ここに来るまでのことについても、堅く口を閉ざしたままだ。

 そんな状態で一緒に住み始めて四ヶ月。分かったことは、

 未来の猫型ロボットでは無いこと。

 自分の基本的な情報を何一つ持ってないこと。

 家族すら存在自体が定かでないということ。

 とても大人しい……けど、好奇心は旺盛なこと。

「教育」というものを、あまり受けていないらしいこと。


 どうも、未来が見えるらしいこと――


「シイナ、ご飯の前に冷えピタ貼ろっかぁ」

 一度テーブルに物を置いて、冷えピタシートを箱から取り出す。おでこに貼ってやると、ぴくんっと彼は身体を震わせた。猫耳少年には、間に合わせで「シイナ」と名付けた。単純に「白」から連想していって浮かんだ名前である。


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