撮影前:笠原の一面
奏は長野にスケジュールの確認を取っている。
「控え室は使えるの?」
「いえ、まだ後二人使います」
「そう」
長野の答えに、奏は一つ頷いた。
控え室、というのは主に髪のスタイリングやら化粧を行っている場所。服を選ぶのは、また別の部屋で行っている。
「ちょっと見てくる」
月刊『プア』のスタイリングや服のコーディネートは基本的に奏が監督していて、『プア』が島外にまで流行るようになったのも、やはり彼のセンスの成し得る業なのである。
「長野。そこの関西人と副会長が逃げたら連絡くれる?」
おー……怖っ。「逃げないように見張ってくれる?」ちゃうもんな、「逃げたら連絡くれる?」やで? 雷落とす気満々やんアイツ。
奏はすぐに踵を返して撮影用ホールから出て行った。
……はぁ〜、何かなぁ……
明崎は溜息を禁じ得ない。気疲れするというか。
――撮影スペースで「はい、OKでーす!」「ありがとうございました!」という声が上がった。
今日は同時に二つの撮影を行っていたみたいだ。片方が今終わったらしい。明崎は何の気なしに視線を向けた。
すると、そこでモデルをしていたのは。
「あ……鳥潟」
見知った顔だった。というか、明崎的には奏ぐらいに重要な人物である。
「なぁなぁ。笠原、今向こうで撮影してた子な。あの子が鳥潟やで」
「……可愛らしい人だな」
「男やで」
「……!?」
笠原が驚いて息を飲んだ。
いやー、初めて見た人は皆同んなじ反応するもんなぁー。
オモロいわー。
奏女王が「美少女めいた美少年」というのなら、鳥潟は「何かの間違いで男になってしまった美少女」である。
白く柔らかそうな肌に、ほんのりと差した朱。桜色に色づいた可愛らしい唇。長い睫毛に、黒い瞳は世の女子たちも羨むほどに大きくて愛らしい。
髪はミディアムショートだが、今はワックスか何かでゆるくウェーブ掛かっている。
そんな容貌で、小柄で細身で、声すらも高くて綺麗なソプラノ調。最早出来過ぎレベルの美少女っぷりなのである。
『プア』の看板娘ポジだが「えっ、男ぉっ!?」と騒がれるし、挙句付き合いの長い明崎でさえ未だに男なのか疑う位に、可愛い。
本当に可愛い。
ちなみに、鳥潟はセカンド・チャイルドである。自分の身体や、触れたものを宙に浮かすことができるのだ。
鳥潟はカメラ担当の生徒と二、三言交わしただけで、そっと撮影スペースから離れて隅に控える。
……手持ち無沙汰そうだ。
よっしゃ、ちょっと声かけたろ。
キリオ君は今関わったら面倒そうなので、放っておく。
明崎は笠原を連れて、鳥潟の所へ向かった。




