撮影前:霧ヶ原の予感は当たりました
次の日。今日はいわゆる花の金曜日。
ただし明崎はげんなりしている。何故って。
〈奏プロダクション〉の本拠地にいるから。笠原は驚きを隠せずに、呆然と目の前の建物を見上げている。
そう、見上げている。白いドーム状の建物を。
撮影所である。カネシロの所有物件らしい。明崎も何度か足を運んだことがあるが……毎回奏のバックに強大な権力を感じずにはいられない。
「……行こか」
「あぁ……」
笠原は気後れした様子で、明崎の後についていく。奏は後から来るそうだ。
中では既に撮影が始まっていた。
「あ! 明崎ー!」
「ながのーん! お久ー!」
入ってすぐに、近くにいた生徒が明崎に声をかけて来た。明崎も笑顔でその生徒の元へ行く。
「あ、コーラ飲んでるー。ええなぁーコーラ。コーラちょーだい」
「あーげないっ」
「えー。じゃあ彼氏紹介してやー」
「あ、ちょうど今いる」
「マジでっ! どこどこ」
「あっちの右側のドア付近でもたれてる人」
「……ははぁー、君中々やるな」
「そういって明崎こそ……ほら」
「え? 笠原? あの人とはそういうんちゃうよー。――おーい、笠原」
どこに行っても知り合いがいるのだな……。
ぼんやりそんなことを思っていると、明崎が手招きしてきた。
「この人写真部の、ながのん」
「長野な。よろしく」
「あ……よろしく」
長野は爽やかな笑みを笠原に向けた。黒髪の好青年風の人だ。一応写真部だが、奏プロ内では主にスケジュール管理を担当しているのだという。
「おーい長野ー!」
「はいはい」
長野は紹介もそこそこに、ほかの生徒の呼び出しを受けて行ってしまった。明崎は明崎で、自分のスクールバッグからCCレモヌのペットボトルを取り出している。
「……何というか」
「どしたん?」
「男同士が、普通なのだな」
……皆が皆、普通にこの状況を――男同士を受け入れている。本当に今さらだが、すごい光景である。
「あー、まぁ」
「ホンット理解できない世界だよねーハハハ」
「ぶっ」
突然の背後からの声に、明崎はCCレモヌを噴き出しかけた。
「げっほ、げほ!」
やっば……気管に!
「だ、大丈夫か」
笠原がすぐに明崎の背中を摩った。そして、後ろを振り返ると。
「霧ヶ原……?」
「……うーん。なんでそこまで驚くかなぁ」
少し不服そうな顔をした霧ヶ原が立っていた。
「うぇっほ、げほ……君、」
アホちゃうか。そう言いかけたものの、喉の引っ掛かりが邪魔をする。明崎は、もう一度CCレモヌを飲んで喉の引っ掛かりを飲み下した。
あー、死ぬかと思ったー。




