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「カネシロってファッションビル知ってる?」

「電車の広告で見たことはある」

 カネシロというのは、全国でファッションビルなどの商業施設を展開するグループで、よくテレビCMや雑誌でも出てくる有名どころだ。

「僕がそこの息子なの」

「え」

 呆気に取られて奏を凝視する。そんな大企業の御曹司だったのか、この人。

「まぁ転校してきたばっかだし知らなかったかぁ。……ふふ、すっごい驚いてる」

 奏はくすくすと笑った。……やっぱりこの美少女めいた容貌と御曹司は結びつかない。

「服はカネシロ経由で色々借りてるよ。送料代だけで済むし、読者が買ってくれたら結局ウチの儲けだからね」

 そういう金銭の絡む話をよく学校側が許したものだ(後で明崎から「学校にかなり寄付しているらしい」と聞いた)。

 ……再びページをスライドさせていく。と、明崎と笠原は見知った顔を見つけた。

「あ、会長や」

 波江高校の会長――池上が出てきた。そういやこの人もレギュラー軍だったわ、と明崎は思い出す。

 黒のパイピングハットに黒地のノースリーブ、腰にはシャツを結んで、ブラウンのカーゴパンツ。しなやかな筋肉のついた腕が惜しげも無く晒されている。

 中々決まっている。

 相変わらずのギリシャ彫刻のように整った顔で、カメラに向かって流し目をくれている辺りが色っぽい。

 しかしこの麗人が、ここ最近笠原にお熱でどうしようもないアレと同一人物だと思うと……うわぁアカン、残念なイケメンにしか見えへんくなってきた。

 最後まで見終わって笠原はタブレットを奏に返した。

「大体分かった?」

「……俺がこんなのに出ていいのか?」

 笠原は戸惑った表情を浮かべる。皆、顔の整っている人ばかりだ。その中に、俺ごときが入っても……。

「笠原君の特集を五、六ページ入れようと思ってね」

「五、六ページも!?」

 そんな需要が一体どこにあるというのだ。

「大丈夫。笠原君なら売れる。絶対売れる」

「せやろなぁ」

 明崎まで同意している。……ただし苦笑いで。さらに不安になる。

「どういう内容でする気なのだ」

「噂の美貌の転校生、その素顔は! 的な」

「……俺は、そんな顔も性格も、何も話題になるところは無いぞ」

「へっ?」

 奏がきょとんとした顔で笠原を見る。笠原は本気で言っている。

 笠原の困った目としばし見つめ合ってから、奏は明崎を見た。

「……うん。君が思っとる通りやで」

 明崎がテレパシーを受け取ったかのように、答える。

「……マジで?」

「ガチで」

「……なるほど」

 一体何の話を。笠原が二人を交互に見ているうちに、奏が「まぁともかく」と話を進めてしまった。

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