交渉
……あー。懐かしいね、あれから丸一年ってね。
「で、関西人のことはホントどうでもいいから置いとくけど」
遠い目でいつかの記憶に思いを馳せた明崎は、すぐさま現実へ引き戻された。
「笠原君にモデルをやってもらいたいんだ」
「モデル?」
きょとんと目を瞬かせる笠原。
「別に難しいことはしないから。ただ写真撮って、ちょっとしたインタビューに答えてもらうだけ」
言いながら奏はスクールバッグからタブレットを取り出すと、見やすいように立てて『プア』の表紙ページを表示させた。
「笠原君、僕らの本見たことある?」
「いや、全く」
「まぁ見てくれたら分かるよ」
タブレットの画面を指し示す奏。
表紙を飾るのは他校の生徒だった。
透季島には高校が三校ある。『プア』の編集自体は波江高校の担当だが、モデルはその三校から奏のスカウトで選んでいた。表紙の生徒は透季中央高校で、これまたイケメン。灰色地に白でトリッキーな柄のパーカーを着てフードを被り、勝ち気そうな顔を少し上向けて、視線をカメラに降ろしている。
見出しには青色の字で「特集 今すぐ始めるスタイル改造計画!」。
どうやら服のところをタップすると、その服の紹介ページに飛ぶらしい。パーカーをタップすると、服だけの写真とメーカー名、商品名、値段などの詳細ページが出てきた。
「このページも作るのか?」
「もちろん」
「すごいのだな」
笠原は感心した様子で次のページへスライドさせる。
「こういうものを作るのは大変だと聞いた」
「まぁねー。写真だって一回につき大体四十枚は撮るからね」
「四十枚……!?」
「一、二枚って訳にはいかないんだ。その中からどれがいいか選ばなきゃなんないし」
どのページも趣向を凝らしている。背景や小物の色遣いも鮮やかで、見ていて飽きない。
それに、モデルがやはり美形ばかりだ。彼らにもファンがいて、半ば写真目的で買う人も多いのだという。
何とはなしに、服の部分をタップして、詳細ページも表示させる。……そこで、笠原はふと気づく。
「……あの」
「ん?」
「こういう服はどこから調達するのだ?」
考えてみれば。今表示させているのはメッセージプリントのTシャツで……一五八〇円。
別に手を出せなくもない値段だが、この『プア』の中では沢山の服やアクセサリーが登場している。……一体どうやって調達してきているのだろう?




