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せや。せやったわ。
確かに会っている。
三日前、俺が廊下に転がっていた時に、上から楽しそうに見下ろしていた。
――あれ? 待てよ? そういえば俺、救急車に乗った時とかの記憶が無い。奏女王に会って、それから何を……
バチッ
「イタッ」
電気が走ったような音と共に、静電気にも似た痛みが左肩を走った。
何や、何や何や何や!?
「助けてもらったんだから、まずはお礼を言うべきでしょ」
小首を傾げて嗤う奏。
「はぁっ……?」
状況が全く理解出来ず、つい素っ頓狂な声を上げる明崎。
「跪け関西人」
バチバチッ
「うわぁ!」
また左肩で痛みが弾けた。痛いというよりは驚きで声を上げる。
――電気!?
そこで伊里塚から以前聞いた話が頭を過る。そういえば電気を操るセカンド・チャイルドが同学年におるって……
まさかこいつか!
ってかこれ逃げた方がいんちゃうん!?
……逃げやんな!
明崎は泡を食って身を翻すと、ダッと全力でドアまで走った。
何で三日前の今日でこんな目に遭わにゃならんの! こんな危ないトコいてられへん! 殺されるっ……
ドアノブに手をかけた――
ガチャ、
「は……あれ?」
開かへん。
「なん……えぇっ!!」
ガチャ、ガチャガチャガチャ!
幾ら左右に回そうと、押そうが引こうが開かない。
とっ、閉じこめられた!?
「ふふ、気の利く奴隷ちゃんが鍵かけてくれたみたいだね」
くすくす、と後ろから笑い声が聞こえた。恐る恐る振り返れば、奏様は椅子に優雅に座ったままだ。
バチッ
「っ!」
ドアノブに電気を走らされ、明崎は慌てて手を放す。
……観念して、もう一度奏と向き直る。
「そうそう。素直な子は好きだよ」
微笑む奏。
……そう仕向けたんは誰や。
「なぁ……何なん? これどういうことなんよ?」
明崎は未だに真意が掴めていなかった。ただ礼を言わせるためだけに来させたとは、とても思えないのだ。
……いや、こんだけデンジャラスな性格していたら有り得なくはないんかもしれへんけど。
「まさか忘れたとは言わせないよ」
奏は足を組み替えると――驚愕の事実を告げた。
「お前、三年間『僕の犬』になるって約束しただろ?」
「は……」
明崎の脳が一瞬凍結した。
何ですと……?
……。
………………。
「いや、いやいやいや」
覚えがない。全く身に覚えが無い。多分正気の俺ならそんな約束せえへん。
ってか犬って。犬ってっ……!
「か、鐘代さん? あのー、」
「鐘代様だ」
バチバチバチッ!
「ぎゃーーーっ!!」
左肩から腕に掛けて灼けつくような凄まじい痛みが襲い、肩を庇いながら、まともに立っていられずドアに倒れかかった。今にも腰が抜けそうだった。
ガクガクと腕全体が激しく震える。
ヤバい、ホンマに感電してんちゃうんっ……
そう思った瞬間、明崎の頭の中で恐怖の土砂崩れが起きた。死ぬかもしれないという強い恐怖はあっという間に目の前まで押し寄せてきた。




