女王様との出会い
奏は笠原に向かってニコリと愛想良く笑った。
「ちょうど笠原君にお話があったんだ。会えて良かったよ。初めまして、鐘代 奏です」
「……初めまして、笠原 紫己です」
まずはお互いに自己紹介。
警戒するせいで、笠原の表情は硬い。が、そこで引くどころかむしろ相手の隙をこじ開けるのが奏女王である。
「ちなみに君と同じセカンド・チャイルドだよ」
「えっ……!?」
思わぬ告白に、笠原が驚きを露わにした。明崎がそっと付け足す。
「前ちらっと教えたやつ。電気操るのがこの人な」
「……そう、なのか」
「ふふ、よろしくね」
早くも話術に絡み取られそうになっている笠原を見て、女王は楽しげだ。
「……で、何の用なん?」
どうせ雑誌の話やと思うけど。明崎は思いつつ、つっけんどんに突っ込む。
「まぁ関西人が予想してる通り、『プア』の話だよ」
奏は特に隠すこともなく答えた。
「関西人……?」
「彼とは一年生の頃から縁があってね」
笠原が怪訝そうに聞くと、奏はクスリと笑いながら答えた。
ホンマにな。どうしてこいつと出会うことになったんか、教えて欲しいくらいですわ。
去年、明崎が救急車で運ばれる事件があった。
入学して二ヶ月。つまり丸一年前の話である。
風紀委員になりたての須藤が大勢にボコられそうになっていたので加勢に行ったら、逆に明崎が不良にぶっ飛ばされて、学校の窓ガラスをぶち破り校内の廊下で血の海に転がっていたという中々悲惨な事件があったのだ。
ただし大事には至らず、三日後には包帯巻いて復活していたと思う。これがあったお陰で、むしろ不良たちが逃げて結果オーライだったのかもしれない。
……んな訳あるかバーカ! 結果オーライとか何言うとるん俺! もう二度としたないわ!
この事件は未だ伝説として語り継がれていたりする。
で、奏女王に会ったのがこの時。救急車はちゃんと呼んでくれたらしい。が――
学校に復帰したその日。帰りのHRが終わった瞬間に、明崎は奏女王の下僕たちによって連れ去られていた。
「ちょっ、ちょっちょっちょっ!」
俺病院行かなアカンねんけど! 経過報告せなアカンのですけどっ!
抵抗する間もなく、あっという間に明崎は写真部の部室に放り込まれる。
「やぁ。案外元気そうだね」
奏はパイプ椅子に、優雅に座って待っていた。
……ん?
「……ドチラ様?」
明崎は本気で聞いていた。
「覚えてないの?」
「いやー、そもそも……」
ウチの学校って女子おらんよな?
目の前にいたのは、ゆるふわカールでロングヘアーな愛らしい顔立ちの女の子だった。白磁の滑らかな肌に、長いまつげの下から覗く零れ落ちそうなほどに大きな瞳。思わずキスした瞬間の感触を想像したくなる、うるるんとした唇。
……絶対会ったことない。
だって、会ったら忘れないはずだ。こんな絶世の美少女。忘れるはずがない。
「これで分かる?」
なんて思っていたら、女の子は髪を無造作に取り外してしまった――
「……ああっ!」
そこから現れたキャラメル色のミディアムショートヘアー。
こっ……こいつは!
「鐘代 奏!?」
「鈍いんだよ全く……」




