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奏女王、登場

 鐘代 奏。

 キャラメル色のさらさらミディアムショートに人形のように整った小顔。小首を傾げるだけで、流し目をくれるだけで多くの男子を陥落させた蠱惑的な美貌の持ち主である。

 通称、奏女王。影の女王。

 どうして彼が女王なんて呼ばれるのかというと、女装家でサディスティックかつデンジャラスな性格の持ち主だからだ。

 彼によって陥落せしめられた男子たちの多くは部員となって彼の下僕となっている。こいつらも命令されたら結構何でもやる。

 ……あーもう俺の周りにはどーしてこんなにデンジャラスボーイが多いんかなぁ!? 明崎だって本当は関わり合いたくなかったのだ。

 まぁ、何故ここで奏女王の紹介がいきなり出たかというと。

 目の前に奏女王その人がいるからだ。

 ――今日は笠原のバイト先が定休日。

 本当は駅前に繰り出して、案内して回ろうと思っていたのだ。

 が、しかし。

 駅前に着いてどっかで小腹満たそうと有名ハンバーガーチェーン店に入って、明崎と笠原がお揃いでバリューセット頼んで、席に着いて「もーマジ腹減ったー食べよー早よ食べよー」と、ハンバーガーの包み紙をいそいそ開いて、

「やぁ。奇遇だね」

 明崎がハンバーガーにかぶりつこうと大口を開けた、まさにその瞬間に声をかけられたのだ。絶句する明崎。口を開けたまんま、そろ?っと見上げた。

 ホットコーヒーとポテトをトレイに、奏女王が立っていた。

 ――戦慄の事態である。

「……相変わらずの間抜け顏だね」

「って俺こんな顔してへんわ!」

 ……はぁ?

 はあぁ? 何でぇよ。何でこの場所が分かったし。

 状況が飲み込めていない笠原は、びっくりして目をパチクリさせている。

「相席良い?」

 明崎は渋い顔で辺りに目を走らせる。よくよく見れば三つぐらいの席に分かれて〈奏プロダクション〉の部員たちが監視していた。

 見知った顔もちらほらいる。

 どんだけ用意良いんよ?

 再び奏を見上げれば、彼は答えを促すように片眉を器用に上げた。不用意に動いたら、後で何されるか分かったものではない。

「……ちょっと待って」

 明崎は立ち上がりながら、自分のトレイを笠原側に押し出す。不穏な空気を読み取ったのだろう。笠原も少し不安そうに明崎の動向を窺っている。

「どうも」

 明崎が笠原の隣に座ると、奏は明崎がいた席に座った。これで対面する形になる。

 三人共、制服姿だ。ちなみに奏は普段から女装をする訳ではない。学校にいる間は普通にスラックスだ。女装は気が向いた時とファッション雑誌に自身が載る時にするのだ。

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