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「何なん? ……どしたん?」
「来月の月刊『プア』の原稿が届いたんだけど」
月刊『プア』。
二〇〇〇年代に「高校生による高校生のためのフリーペーパー」が編纂されたという歴史的な事件が起きてから、各地では「ご当地高校生雑誌」なるものが作られてきた。
そんな中。我が波江高校には鬼才と謳われる鐘代 奏という生徒がいるのだが、彼が当時一年生の身で作ってしまったのだ。
「波江高校による島内高校生のためのファッション雑誌」を。
しかも定価五〇〇円である。
「高校生による高校生のためのフリーペーパー」史に新しい事件を起こしたのだ。
……いや事件というか、テロでしかない。フリーペーパーを有料雑誌に変えるとか。やっちゃいけない。
しかし創刊した途端に人気は爆発、注文は殺到。
それまで島内でも発行されていたフリーペーパーをあっという間に彼が率いる〈奏プロダクション〉に吸収したのである。
今や月刊『プア』が島内高校生の流行を作り出しているといっても過言ではない。それに島外でも売れ行きが好調というのだから、最早ギャグでしかなかった。
……その月刊『プア』が、鐘代 奏が一体何をやらかしたというのか。
「今回貰ったのは半分だけで、まだメインの原稿が一部できてないらしいんだ」
「うんうん」
『プア』の原稿というのは大体一、二回に分けて一応波江の生徒会へ寄越される。
今回霧ヶ原が目を通したのは、内容は宣伝や細々したコーナーといった文章のページばかり。霧ヶ原の言う通り、メインを後に回された訳だがその理由というのが――
「それでね。……女王様は笠原君をご所望しているそうです」
二人の間に沈黙が降りる。
「……事件や」
「事件だよ」
何がどういうことなのかと言うと。
いわゆる超絶美形の笠原のことだから、雑誌に載せるなら話題性と注目度はかなり高いはず。もしかすれば彼の特集記事を考えちゃったりなんかしてるかも、ということだ。
「……あれ? でも笠原のことやろ? キリオ君は関係ないんちゃうん?」
「そうなんだけど……なーんかそれだけじゃないような気がしてさぁ? すっごくヤな予感するんだよねぇ?」
「えっ……ちょ、変なフラグ立てやんといてよ。怖いやん」
「――この笠原君っていうのは、バイトいつ休みなの?」
「早急に調べてきます」
女王様の言葉を受けて、部員――いや、下僕の一人が部室を出て行った。
優雅に足を組んで椅子に座る魅惑的な女王様。その傍らに立つ、これまた美少女のような顔立ちの生徒が女王様に話しかけた。
「……その人、明崎君と同居してるって」
「あの関西人がやたらバリアを張っていたからね。……でもこれで方針を決めたんだから合わさせるさ」
「……楠臣君も最近その人の話してた」
「ふふ、鳥潟が可愛く『笠原君と一緒に撮りたい』って言ったら何が何でも段取り付けるだろうさ。むしろカメラ持って乗り込んでくるかも?」
「………」
「鳥潟はホント可愛いなぁ」
可憐な声が、クスクス笑った。




