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「ごめんやでぇ! 一時間も待たせてすんません」
「や……こちらも着いたのは十七時前だ」
「あ……そうなん? ほんなら良かった〜」
転校生は何故か海に入っていたが、呼び戻したら素直に上がって来てくれた。
名前は、笠原 紫己というらしい。
「笠原シキ……シキってどう書くん」
「紫に己と書く」
「それで紫己言うんか。珍しいなぁ」
話していて思ったが、笠原は堅っ苦しい喋り方をする。
古風というか、古臭いというか。
けれど。
水道の水で足の砂を洗い流す転校生。顔立ちがとても綺麗だった。
アーモンド型の目がはっきりとして大きい。女顔であるが、輪郭がシャープで、全体的に無駄の無い凛とした顔立ちだ。うなじまで伸びた髪が若干跳ねてゆるくちゃになっているが、上手いこと似合っている。
上背も明崎と同じくらいあるので、どこをとっても羨ましい限りの容姿だ。
加えて物静かな佇まいだからだろうか、随分大人びて見えた。
けど何か、うーん……ちょっと暗い?
まぁ、ええか。
いずれにせよ、この転校生の見てくれがかなりの上玉であることには違いなかった。
「俺ら一緒のクラスやねんて」
「……そうか」
「よろしく」
「………」
「………」
あれ? 返事がない。
蛇口をキュッと締めて足を拭く笠原は、にこりともしなければ口を開く気配もない。目すら合わせてくれない。
……うそやん、無視?
初対面でまさかのシカトを喰らい、にこにこしたまま愕然とする明崎。それを尻目にスニーカーを履き直した笠原は、キャリーバッグを持って真っ黒屋敷に向かおうとした。
「あ、運ぶわ」
「いい、一人でやれる」
つっけんどんに突っぱねられた。
なんやなんや、雲行きが不穏すぎる。が、ここでめげる明崎ではないのでもう一声かける。
「ええで。手ェ空いてんねんから、持ってくやん」
「あっ……」
友好アピールはやれるだけやった方がいい。もしかしたら態度が和らぐかもしれない。
強行突破で段ボールを取り上げ、玄関を先にくぐる。強引に事を動かすと案外上手くいくもので、笠原も何か言いたげに口を動かしかけたが、結局は渋々了承した。
踊り場から埃っぽい廊下に足を上げて、先に進む。笠原も後ろからついてきた。




