霧ヶ原の通達
笠原が手袋を貰った日から三日経った。相変わらず笠原は黄色い声援に囲まれているようで、忙しいながらも充実に過ごしているようだ。
素晴らしいことだと思う。
そして、俺も今日の授業が全部終わった!
穏やかに慎ましく一日が過ぎた!
よーし、今日もいい天気! 世界は平和!
「さー、帰ろ帰ろっ――」
「明崎」
「ぃいいいいいっ」
呼ばれて振り返ったら、霧ヶ原がいつになく神妙な面持ちで背後に佇んでいた。背後霊の如く。
お陰で明崎は驚いて豪快に飛び退く羽目になった。
「……あ? キリオ君? ……もぅー阿保ちゃうか君! ひっそり立たんといてよ!」
「うん、ごめん」
「え……ナニ? 何か気持ち悪い」
素直に謝られた。明崎は気味が悪い思いで霧ヶ原を見る。
「真顔」の霧ケ原は何度も見たことがあるが、「神妙な面持ち」というのはそれとは違う。いや、「真顔」も「神妙な面持ち」も見た目は同じなのだが……何というか、纏っているオーラが違うのだ。
で、今回の「神妙な面持ちで背後に佇んでいる」霧ヶ原というのは、実は前にも三回見たことがある。
一回目は一年生の春、「どうしよう、僕女装させられる……」と、生徒会内の一年生歓迎会の時。
二回目は一年生の冬、「どうしよう、決算が合わない。帰れない……」と、年末の決算報告書を作成している時(明崎もそこへ引きずり込まれ、一緒になって遅くまで残った。確か帰ったのは二十二時頃だった気がする)。
三回目は二年生の春、「どうしよう、僕副会長にさせられる。クッソさせるかこの野郎! 僕はこの学校を掌握するという壮大かつ希望に満ち溢れた使命をムニャムニャ(ここから先は覚えていない)」と、選挙投票でダントツの一位だったにも関わらず何故か二位の現会長が生徒会長になると決まった時。
この時の霧ヶ原は相当お怒りであったが、伊里塚に「馬鹿。お前以外に任せられないから敢えてこの影の帝王役に就かせたんだろうが。傀儡政権ってのは裏から操って作り上げてくモンだろう」と適当なことを言われて、あっさりその気になってしまった。
ちなみに伊里塚は自分が決めたような口振りで言ったが、この役決めに一切関わっていない。どうして霧ヶ原がそうあっさり騙されたのかは未だ謎である。
伊里塚君の圧倒的説得力に洗脳されてしまったんだろうか。
――それで結局、明崎が何を言いたいのかというと。
要は「嫌な予感しかしない」ということである。




