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「笠原くーん! 今日これ持ってきたの! 良かったら貰って!」
「あ……、ありがとう、ございます」
注文の料理を持って行った先で、笠原は奥様から何やらプレゼントを受け取っていた。戸惑ったように受け取ったピンクのラッピング袋を見下ろすと、笠原は少し申し訳なさそうに、しかし嬉しそうに笑みを浮かべた。
まぁ忙しそうでも、結構幸せそうや。
良かった良かった。
「いやー! 可愛いー!」「笠原君可愛い!」と笠原の笑顔に対しての騒ぎが沸き起こる中、厨房の主人が「はいよ」と厨房から直接カウンターに定食を二つ、どんと置いてすぐ別の料理に取りかかる。明崎が塩鮭定食で、須藤が生姜焼き定食だ。
「そういやお前ってさ、よく魚頼んでるよな」
「魚好きやねん」
背後ではおばさんたちが笠原談義に花を咲かせている。黄色い声が絶えない。
「……落ち着いて食えへん」
「美味いけどな?」
定食を残さず平らげ、「ごちそー様でした」と店を出る。
その間際、明崎が「じゃっ」と手を上げると、笠原もちょっと笑って手を上げ返してくれた。
一カ月前に比べてこの反応。嬉しいわ?。
「えっ、笠原君! 今の子お友達?」
「はい、まぁ……」
「やだ?青春?、可愛いわねぇ」
ああ、でも。何か疲れたわ……。
「プレゼント何やったん?」
「まだ開けてない」
バイトから帰って居間に座った笠原は、いそいそとピンクのラッピング袋を取り出して、紐をしゅる、と解いた。
「わ……」
鍋つかみ用の手袋が入っていた。笠原のエプロンの色に合わせてか、青色である。笠原は感慨深げに手袋を袋から取り出して眺める。
「話してたことを覚えてくださってたのか……」
「え、何話したん?」
「前に家でも料理をするのか聞かれて、その時に手袋の話が出たのだ」
我が家には鍋つかみという洒落た物は無く、笠原はいつも布巾で熱いものを掴んでいた。その話をしたらしい。
「それでこれが来たと。へぇ〜」
笠原スゲェ。マジすげぇ。
「アンタそれ、ちょっと可愛くおねだりしたらマンション買って貰えるんちゃうん」
「誰がするか」
罰当たりな、と笠原は顔をしかめてみせる。
「だっは! ちょ、『罰当たりな』やって。ホンマ言葉のチョイスぶれへんな?」
「は?」
「今時『罰当たり』って使わへんし。いつもオモロいな君」
「……アンタ馬鹿にしてるか?」
「いーえ? ぜーんぜん?」
「絶対馬鹿にしてるだろ」
「もーごめんってー。俺むしろ君のボキャブラリーに感心してるくらいやでー? ほら。……はい、はーい。むくれないの」




