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笠原のバイト先

 笠原が定食屋でバイトをしているらしい。

 行き始めてまだ一週間しか経っていないが、2‐Aの生徒は何故か全員知っていた。もちろん2‐Aで全員知っているのであれば、学年中にその話は広まっている訳である。

 さすがは笠原。早速行こうという者まで現れているから、思わぬ客寄せに成功している。と、最初は明崎もそう思っていた。

 しかしその夜。

「今まで余程忙しかったのだろうな。俺が入る時間からちょうど客が押し寄せるのだ」

「押し寄せる?」

 バイトから帰ってきた笠原の一言である。

 結構オーバーな表現だが……

「すぐ満席になるし、外には行列ができているし……夫婦でよく切り盛りしていたものだ」

 ……んんん?

 笠原の行っている定食屋は小さい所だと聞いている。

 外に行列って……どういう状況なん?

 と、いうわけで。

 次の日、明崎は須藤を連れて、こっそり先回りして定食屋に入った(え、須藤? 「奢ったるやん」って言ったらホイホイついて来た)。

 カウンター五席と六人掛けテーブルが六つあるが、狭い店内で若干無理に配置したらしく、通路は人一人通れるぐらいしかない。

 とりあえず厨房と対面しているカウンターに二人が座った時は、まだおばさんの二人組しかいなかった。

 その時点では、笠原が来る十分前だった。

 そして現在。

「……何故アンタらがここに居る」

 厨房に入ってきた笠原が二人を見つけて驚いた顔をした。しかし二人も負けじと驚いている。というか、ドン引いている。

「キャーーッ!」

「笠原くーんっ!」

「笠原くぅん! 注文お願いしまぁーす!」

「こっちにも来てー!」

 現在定食屋は、黄色い悲鳴を上げるおばさんたちで満席なのだ。既に相席状態で、外にも六、七人の……やはりおばさんが待っている。

 まさかと目を疑ったが、皆が皆、笠原目当てで来ているようなのだ。キラキラ、ギラギラ……目を輝かせて。

 恐ろしいが、これは現実の光景である。どうしてこうなった。

「……いっつもこうなん?」

「ほぼ毎日」

 笠原は私服に青いエプロンをしている。家でも毎日見ている格好だが、おばさんたちは「可愛い」「カッコいい」とキャッキャ騒いでいる。

 どうやら「超美人」と「高校生」と「エプロン」の組み合わせは、おばさんの乙女心だか母性本能だかをくすぐるらしい。

 笠原は厨房の奥に引っ込んでしまった。定食屋を営んでいる五十代くらいの夫婦と二、三言葉を交わして、すぐに忙しく動き始める。厨房とは言っていたが、ホールも兼任しているみたいだ。

 ……まぁ、そりゃあそうか。

 でなきゃこんなにおばさんたちを呼び入れることはできない。

「おおぉ……行列増えた」

「ヤバイでコレ。半端な数ちゃうし……これは、」

 明崎も須藤も同じことを思った。

「「怖ぇ……」」

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