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クラス内に衝撃が走ったのは言うまでもなく。さらに言うならば笠原の笑顔はとても綺麗で……つまり皆して魅了されてしまったのである。教室が不意に静かになったので、気づいた笠原からはサッと笑みが消えてしまったが。
「どしたん?」
「いや……急に静かになったから」
ちょっと不思議そうに周囲を窺う笠原の表情に、やはり以前のような険は無い。
――そんな中、
「……何か急に仲良くなったよなぁ? そこ二人」
「ちょ、行こ行こ」
離れた所で眺めていた明崎の友人二人が、そこへ乗り込んできた。
「お?い、何話してんの??」
「独り占めすんな、俺らも混ぜろ」
「いやん、ちょっと。えっち」
「何がえっちだし」
片方の友人は明崎の首に腕を回した。明崎はされるがまま、ケラケラ笑っている。
それを見ていた笠原は、口元に少し笑みを残したまま、そっと席を立とうとした。
「はいはい、遠慮しない」
明崎の手が伸びて、やんわりと笠原を引き戻した。
笠原はちょっと驚いた様子で明崎を見たが、その視線がチラリと明崎の友人たちに向けられる。さすがの友人たちも、笠原が自分たちを気にして立ち去ろうとしたのだと気づいた。
「あらぁ……お邪魔だった?」
「ちゃうちゃう。この人照れ屋さんなだけやから。あれ、人と目ェ合わすの恥ずかしーってヤツ」
「いや……無理してんじゃない?」
「笠原君気にしてんなら、なぁ」
「ち、違っ……」
焦ったように初めて笠原が声を上げた。
「そうではなくて……」
笠原は視線を伏せ、困ったように辺りへ彷徨わせる。
「俺がいた方が……話しにくいのではないかと思って」
その言葉に思わず、友人二人はきょとんと顔を見合わせた。
「……いや、いやいやいや。んなこと無いよ」
「むしろ俺ら、明崎そっちのけで笠原君と話してみたかったぐらいだし!」
「あのー、すっごい失礼な言葉が聞こえたんやけど」
「何か意外。笠原君、思ったより穏やか」
「え」
「いやぁ、もっとツンツンしてるかと思ってた。全然そんなことないね」
「明崎の言うとおりだわ」
返答に困っている笠原をよそに、良かった良かったと笑う友人二人。彼らは早くも打ち解けるモードに入っている。
遣り取りを見守って安心した明崎は、席を立った。
「トイレ行ってくる〜」
「おう」
そう言って出て行こうとしたその時。
くん、とシャツの裾を引っ張られる感触を覚えた。振り返ると……笠原がシャツを摘んでいた。
「……あ、」
無意識にやったのか、笠原は慌てて手を外した。
「す、すまん……」
恥ずかしげに顔を背けた笠原だったが、その表情はどこか心細そうである。
「大丈夫やって」
小声で囁いた明崎は、ぽんぽんと頭を軽く撫でて今度こそ廊下に出て行った。




