表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/197

最近は。

 神奈川の陸からフェリーでおよそ二十五分の距離にある海の上の人工島。透季島。科学技術の発展に貢献する企業が軒を連ね、四つの国立科学研究所がそびえる科学島である。

 今や日本になくてはならない都市だ。人口は一万人近く。とはいえ都内からフェリーで通う人も大勢いるので、日中はもっと多いはずである。

 ――その透季島の東、海岸沿いに伸びる道路の脇にポツンと建った崖っぷちの真っ黒屋敷。の、さらに下の砂浜で。

「……ぅわ」

「どうした?」

「や、……うん」

 あー、何で奏女王のことを思い出したし。六月なのに寒気したやないか。

 笠原が海辺を歩きたいと言い出したので、その付き添いにやってきた明崎である。

 現在、土曜日の午前七時半。普段は十時ぐらいにならないと起きてこない明崎だが、今日は何の悪戯か六時に目を覚ました。

 二度寝しようにも、何故か頭がしっかり冴えてしまって眠れない。

 布団でごろごろうだうだ時間を潰しているうちに、隣で物音が聞こえてきて、「あー笠原起きてきたー。よっしゃ行ったろ」と寝るのに飽きた明崎は、笠原が出てくる前にこっそりキッチンの冷凍庫からジェル状アイス枕を取り出して、こっそり風呂場に隠れた。

 この時点で六時半過ぎ。やがて部屋から出てきて洗面所に入ってきた笠原。顔を洗い始めたのを見計らって忍び足で笠原の背後に立った明崎。

 アイス枕でまんべんなくキンキンに冷やした両手を、すーっとシャツの裾近くまで忍ばせ、手探りで取ったタオルから笠原が顔を上げた、その瞬間――

 明崎は両手を一気にシャツの中へ滑り込ませた。

「ぅわぁああああっ」

「うひゃひゃひゃひゃっ」

 大成功でした、午前六時四十一分。

 あー楽しかったぁ~<(´∀`*)

 それから笠原に思い切りど突かれたところで気を取り直して、トーストと目玉焼きで軽い朝食を済ませた二人は、海へ行くことになった。

 そして冒頭の流れである。

 笠原の足が波にサァッと飲み込まれる。彼が振り返った。

 ……ん。

 …………あれ?

 明崎は目を瞬かせた。

 今日は昼から曇りだして雨が降るらしいが、今のところは白い雲が浮かぶ美しい晴天。朝日が差し込んで綺麗だ。

 光・彩度・色合いは、背景のアングルもさることながら、それらも抜群の効果を生み出している。

 いや……? それらの効果を覗いたとしても……これは。


「――明崎?」


 呼ばれて、はっと我に返った。笠原が訝しげに見つめていた。

「……本当に、どうしたのだ?」

 波が大きく引いて、笠原の白い足が露わになっている。

 ……気のせい? やんな。気のせいか。

 明崎は笑って「何でもないわー」と返すと、小走りで笠原の隣へ並んだ。



 退院してから、一匹狼を貫いていたクールビューティーは明崎と行動を共にすることが多くなり、喋るごとに表情が豊かになっていった。

 そこで報告したいこと。それは、笠原が笑うようになったということだ。

 ある昼休みの話である。聞き慣れない小さな笑い声がクラス中の注目を集めた。

 そもそも一匹狼の声は、皆あまり聞いたことがない。人と関わろうとしないから、笑い声なんか聞けるはずもないのだ。だから笑い声が聞こえた時、「誰だ?」と皆は何気無くちらっと見てまた自分たちの話に戻るつもりでいた。

 けど、ふと見た先にいるのは、机を挟んで相変わらずの独り漫談を繰り広げる明崎と――それを見て笑っている笠原ではないか。

 思わずの二度見、必須である。

 ――笠原さんが、笑っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ