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プロローグ

「僕に会えたことを誇りに思うがいい。関西人」


 床に這いつくばる俺を見下ろし、通称女王様と呼ばれる小柄な美少年は悠然と微笑んだ。その見下ろす感じも、高慢な発言も、少女めいた容貌をやたら蠱惑的に見せる。

 なるほど。

 確かに女王様のような風格が彼には備わっている。

 加えて、俺の頭では何らかの心理的現象が起きているらしい。床から見上げていると、段々俺がこの少年以下の……それこそ虫ケラのような存在に思えてくるのだ。この可愛いコになら、踏まれてもええかなとか。

 ……つーか、踏むならさっさと踏んで。

 踏んでくれぇ……

 しかし誤解しないでほしい。俺は決してMではないしなる気もないし、そんなあちこちで寝転んでいる訳でもない。

 因みに、ここは学校の廊下だ。そこの女王様でなくとも誰かに踏まれる危険性はあるが、今なら即行で病院に連れて行かれるはずである。

 ガラス窓をまともにぶち破って、首からドックドク血を出しているこの状態なら……

「助けてあげたいけど、その前に契約してもらおうか」

 愛らしい女王様はこのグロい光景を見下ろし、何が楽しいのかまだ笑っている。

 いや死ぬ、めっちゃ痛い死ぬ。

 ってか、契約って何。

「僕の犬として三年間、働いてもらうんだよ」

 女王様が先に教えてくれた。

 おおぅ、そういうことか。何てこった今しがたMにならんって宣言したばっかやん自分。

 ――誰が契約するか阿呆。

「死にたくないだろう、関西人」

 ………。

 身体は動かせない。変に脱力しているし、というか動かすのが怖い。他の場所にもガラスが刺さっているらしく、あちこちがじくじくして痛い。

 頭だってこれでも朦朧としているし、その頭が思うに俺の命は女王様が握っているのだろう。

「頼む。ほんま……きゅう、救急車……」

「契約するってことで、いい?」

 何でもええから早よ呼んで~……

 頷いたつもりだが、多分、ほとんど動かせていない気がする。頭がグラグラして、視界が狭まって、目の前の物ですら遠く感じる。どうしよう、頸動脈切ったかも分からんよな。

「ふぅん……まぁいいか」

 気づくと、女王様はいつの間にか屈んでいた。キャラメル色のミディアムショートが女王様の動きに合わせて、さら……と下へ落ちる。

 ブレザーの奥のネクタイはエンジ色。

 なんと、女王様は同じ学年だった。

 てっきり年下だと思っていたが――いや、俺より下って中坊やん、阿呆か。

 それにしても近くで見ると、よくできた人形のように顔が整っていて、本当に綺麗だ。

 ぼんやり見ていたら、女王様は何故か俺の左肩に手を置いた。

「ちょっと痛いよ」

 え。


 バチバチバチッ


 全身を駆け巡る、電気が走ったような激痛と音。目の前が真っ白くフラッシュして――俺はあっさりと意識を失った。

 それが一年前の話。俺と影の女王の出会いである。

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