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「ほんじゃあ、はい。成立ー」
「え?」
「好きならもう嫌なことせぇへんやろ? ってか、今まで好きでしとった訳ちゃうし」
「それはそうだが……そう簡単に水に流せるものでは」
「あーはいはいはいはい。もうええって。忘れやんな、キリないで」
それ早よ食べよ、明崎に促される。
そういえば、さっき貰ったリンゴを食べていない。言われるままに食べると、フォークを回収され、もう一個刺して渡された。
「アンタ、やっぱり変わってるな」
「はぁ? 何でよ」
「前、半裸で街歩こうなんて言っていただろ。普通なら考えるだけでゾッとするはずだ。俺でさえ気持ち悪いと思っているのに……見せびらかしに行くって馬鹿だろ」
「ばっ……」
馬鹿とは何や馬鹿とは。あーもう知らん。
こんな子もう知りませんわ。
「でも、その……感謝したい」
「へ」
その流れで出るとは思わなかった言葉に、明崎は間の抜けた声を上げた。笠原と目が合ったが、すぐ気まずそうに逸らされてしまった。
「この身体のことを、理解してくれようとする人は初めてだ。……俺自身、今までこれと向き合えなかったぐらいで、その……勇気が、少し出た」
「……さいですか」
あれで良いなら幾らでもやんで。
「でもさ、俺だけちゃうで。須藤もキリオ君も、皆君のこと理解しようとするはずや」
「そうならいいが……」
「だいじょーぶ、あんだけ心配しとったもん。君が心配せんでいいよ」
「……そういうものか?」
「そういうもん! あー、それにしても良かったわ〜。さっき嫌いって言われたらどうしよう思ったもん。改めてよろしくやで、笠原」
明崎はニッと、満面の笑みを浮かべた。笠原は眩しい思いでそれを見つめる。
まるで太陽みたいな、温かい笑みだった。
――波江高校にやってきて、四週間目の今日。
およ? 明崎は驚きに目を丸くした。
笠原が、ようやく微笑んだのだ。少し恥ずかしそうにしながら、嬉しそうに、
とても綺麗に笑ったのだ。
――何や。ちゃんと笑えるやん、君。
「こちらこそ……よろしく。明崎」
込み上げる嬉しさに、明崎はまた笑った。




