改めまして。
伊里塚の登場により、事態はあっさり終局を迎えた。チンピラたちは抵抗する気すら起きなかったようで、大人しく警察のお縄についたのである。一方、笠原はすぐさま病院へ運び込まれ、入院することになった。その病院は研究所繋がりで、明崎や須藤もよく世話になる。
医者は笠原の背中を目にしても、何も言わなかった。
笠原の命に別条はなかったが、その日彼が目を覚ますことはなかった。明崎たちはそのまま病院から家路へ着くことになったのである。
――ところで伊里塚と連絡が取れなかった時、何があったのかというと。
伊里塚は研究所の上司に何やら言いがかりをつけられ、足止めを食らっていたらしい。その上司と伊里塚はすこぶる仲が悪い、とはかねがね聞いていたが……明崎は思わず、言い訳にしたって下手すぎるわ! と突っ込みかけた。
しかしこの後、「観察対象の安全を優先できなかった」として二人は揃って本当に厳重注意を受けている。というか、その予告の電話が病院にいる時にかかってきて、伊里塚は「ねーもうホンットムカつくんだけどー」と別の誰かとの電話で愚痴っていた。
とんだとばっちりであったには違いなく、明崎は「……何か、ごめん」としか声をかけることができなかった。
そしたら「んな顔すんな」と伊里塚からデコピンを食らった。
イッタ。
……まぁそんな訳で、転校して早々の笠原誘拐劇は、これにて無事解決となったのである。
笠原が目を覚ました知らせを受けて、明崎は翌日の昼に病院を訪れた。笠原はベッドの上で身を起こせるぐらいには回復していた。
青黒い痣を全身にこさえてはいるが、幸い骨にも内臓にも損傷はなく、鱗を剥がされた所もほとんどが、かさぶたになりかかっているという。
……ただ残念ながらというべきか、鱗は再び生えるはずだと、やや複雑な表情で笠原は言った。
ともあれ、明後日には退院できるらしい。
「笠原、あーん」
「いい! 自分で食べる」
「やってみたかってん、こういうのん」
今日はいい天気である。病室の窓から見える海に太陽が反射して、何とも眩しい風景が広がっていた。
――その傍らで二人は何やら攻防戦を繰り広げている。
一口サイズにカットしたリンゴをフォークに刺して、ニヤニヤ笑った明崎が笠原の口元まで近づけているのだ。
「あーん」
「だからっ」
「おーねーがーい!」
明崎は病人の看病にちょっと憧れていたりする。しかし笠原には気恥ずかしくて堪ったものではない。笠原は苦い表情で顔を背けたが、明崎も譲らない。しつこい。
この諦めの悪さは、一体何なのだろうか。
……全く。
このままでは埒が明かないと渋々向き直った笠原が口を小さく開けると、明崎は目を輝かせた。
「マジで! やらしてくれんの?」
「早くしろ」
「はい、あーん」
明崎は嬉々としてリンゴを笠原の口に運ぶ。カリ、と受け取った笠原の耳が、ほんのり赤くなった。
恥ずかしい……
リンゴはシャリシャリと瑞々しい食感で、甘い果汁が口を潤した。




