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3

 ずっと、耐える自分を見ないようにしてきた。

 何をされても、何を言われても仕方ないのだと言い聞かせて。当たり前のことだと、何もかも我慢した。

 それが周りから押し付けられたこじつけだと分かっていても、幼い頃から常だった笠原にはもう変えることができなかった。

 慣れた行為だったとしても平気ではなかった。


 死にたくなるくらい、辛かった。


 自分で言いかけて、本当にそうだったと心の底から思う自分が、紛れもなくそこにいた。こんなにもボロボロだったことに気づかされたのだ。

 笠原はやっと正面から受け止めたのである。

 明崎は笠原が隠さず泣くのを見て、「偉い偉い」と微笑んで、もう一度抱き締めてくれた。

 笠原は知らず知らず明崎に縋りついて、泣き続けた。他人の温もりが、笠原にそうさせる安心感を与えていた。

「あんな……探してる間かなり焦った。須藤もキリオ君も顔面蒼白。むっちゃ心配したし、とにかく俺ら必死やったんやで。生きた心地せぇへんかった。……生きててくれて、ホンマ良かった」

「………」

「……自分で『化けモン』とか二度と言いなや」

 明崎は強い口調で言った。

 自分はただ害なす存在でしかない、と。そう思うことでしか、笠原は自分を見ることができなかったのではないだろうか。そう思い続けてきたからこそ、あんな悲鳴みたいな言葉が迸ったのだ。

 でなければ、ここまで心を閉ざして人を寄せつけないことも、自分を独りに追い込んで、嫌うことだって無かった。

 もうそんなこと、笠原に思わせたくない。

「ずっとそんだけ自分を責めててんな。ホンマ、辛かったな。俺もちょっと泣きそう。……もう、ええから。大丈夫、君は俺や皆とおんなじ。人間。普通の高校生。誰に何言われようが、俺がそうゆーてんねんからそやねん」

 今までがそうじゃなかったとしても、これからそうなるやんか。

 明崎の服を握る笠原の手に微かな力が籠った。

「……どっち信じんの? 俺とチンピラゴボウ団と」

 笠原は泣いて上手く言葉を継げなかった――いや、そもそも口にすることすら躊躇うくらいに、笠原は今まで散々傷つけられてきた。

 自分は「化け物」なのだと、ずっと責め続けて。それなのに今自分は「人間」なのだと開き直るつもりでいて。そんな都合の良い話があるか、ともう一人の自分が叫んでいる。

 それでも――

 答えは明白だった。笠原は大した力も出ないその手で、服を精一杯握り締めた。


 信じたいに決まっている。

 明崎を――信じたい。


「信じて……いい、か?」

「もちろん」

 返って来た返事は、力強いものだった。



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