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「っ……!」
笠原が息を飲む間に、拳が明崎の顎目がけて打ち出される。
――明崎はすぃっと身体を後ろに逸らして躱すと、目の前にたたらを踏んだ男の襟首があったので、むんずと掴んだ。そこを支点に体重移動でぐるんと明崎が男の目の前まで来ると、後ろから前に行った力で男の身体が大きく前へ倒れかかってくる。
明崎は移動した勢いのまま、膝頭を男の腹に思いっきり叩き込んだ。
ドゴッ
「ぐぅっ」
男の身体が宙に浮くほどの強烈な一撃だった。男はあっさり床に沈んで、苦悶に呻く。
「そこで寝とけやボケ」
ドスの利いた巻き舌気味の関西弁が吐き捨てられる。冷ややかに見下ろすと、倉庫の入り口を一瞥した。
……ちゃんと水で拘束すべきやったわ。
倉庫の入り口から浮遊してやってくる海水の塊が男を拘束するのをイメージしたら、後は海水が全部勝手にやってくれる。
明崎は男に背を向けて、再び笠原の所に戻った。しゃがみ込んでみれば、笠原の額から血が伝っていることに気づいた。
「顔……見して」
明崎はそっと笠原の前髪を掻き上げる。
髪の生え際で皮膚が裂け、痛々しく腫れていた。切り傷ではない……きっと、思い切り殴られたか、蹴られたか。他の箇所にも痣は幾つもあったし、唇も切れていた。
怒りで頭に血が昇り、明崎には言葉も浮かばなかった。
……その時、男の声が聞こえてきたことに気づいた。複数だ。警察かと思い顔を上げるが、しかし倉庫に入って来たのは、
「おい! どーなってんだよ!」
「なんでこんなぶっ壊れてんだ!?」
なんと、チャラチャラした出で立ちの男たちがぞろぞろと喚きながら入って来た。しかも三人もいる。
「たっ……助けてくれっ」
拘束されていた男が情けない声を上げた。あろうことか男の仲間らしかった。
「何なん、もう……」
明崎はいよいようんざりした顔で新参者たちを見遣る。すると水の玉がすぐさま男二人を掻っ攫った。
「何だっ!?」
残された男にもう一つの水玉が襲いかかり、向こうの壁に貼り付けてしまった。
「わぁああああっ」
「水が、水がっ」
「何でっ、動けねぇ!」
男たちは水に拘束されて混乱し、しばらく明崎たちの存在に気づくことはなかった。
当の本人はスマホを取り出し、画面を操作している。もちろん男たちなどガン無視だ。
「……伊里塚君、こっち来てるって」
メール画面を一読して告げながら笠原を見る。笠原は目を閉じて、ぐったりとしている。
「大丈夫……?」
もちろん大丈夫な訳ない。ただ、このまま黙っていると、勝手な話だが明崎の気が落ち着かない。救急車が来るまで意識は保つだろうか。




