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「馬鹿かお前! 何してんだよ!」

「水がっ……水が勝手に! 俺かてこんな洪水起こす気無かったってば!」

「じゃあ誰が水操ってんだよ! お前しかいねぇだろうが!」

「ああもう! とにかく水引いて、明崎! 引いてー!」

 倉庫へ止まることなく流れ込む海水は逆巻き、暴れ狂う。やがて倉庫の壁の一部も破壊して噴出した。

 慌てて明崎は海水の流れを強引に変え、全部引き戻した。海水は不自然に一度動きを止めてから、逆流する。

 明崎は背中にドッと汗が伝うのを感じた。ぞっとした。笠原が水の中でも息ができる体質で良かった。でなきゃ……チンピラ共ならまだしも、笠原が何かしら拘束とかされて泳げない状態だったら……想像するだけで恐ろしい。

 海水は海へ戻るついでに若い男も一人連れてきた。

「おっと」

 須藤はこちらに戻ってくる海水をテレポートで避け、ついでに男も拾ってやった。

「……こいつだ」

 水の届かない所まで移動すると、霧ヶ原が冷えた声で言った。

「こいつらが笠原君を……」

 その先は言わずとも分かる。

 男はすっかり気絶していた。霧ヶ原はブレザーからロープとハサミを取り出す。

「えっ、キリオ君どっから出したん」

「こいつ縛っとくからさっさと笠原君助けてきて。須藤、上に道路あったよね。そこに連れてって」

 有無を言わさぬ口調で霧ヶ原は指示を出すと、そのまま須藤と共に消えてしまった。残された明崎は、かと言って海水が出て行かないとどうにも動けない。仕方なく待っていると、そのうち中から二人流れ出てきた。

 いずれも笠原ではなく、こちらも仲良く気を失っていた。

 そのタイミングで須藤が戻ってきた。須藤は無言で二人を連れて行った。この二人も霧ヶ原によってふん縛られるのだろう。

 水が完全に引いた頃を見計らって、明崎は倉庫の中へ駆け込んだ。中は水浸しで、奥にひしゃげたシャッターが転がっている。

 壁が破壊されて開いた大きな穴からは外灯の光が差し込んでいる。

 倒れ伏す笠原は、その光に照らされていた。


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