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2


 あの後から地獄のような責め苦が続いた。犯されることはなかった。しかし鱗を何枚も剥がされ、あの灼けるような激痛が何度も襲って、背中は血まみれになっていた。

 剥がされる度に絶叫する笠原は「うるせぇ」と殴られ、腹も背中も容赦無く蹴られた。とにかく全身痛めつけられた。舌を噛んでしまい口から血を流している。

 苦しげに呼吸をする笠原は、痛みと恐怖と――乾きに意識が朦朧としていた。

 笠原の身体は水分を普通の人間以上に消費するらしく、長時間水を摂らないでいると思うように身体が動かなくなるのだ。

 酷い時には頭痛・吐き気が襲って、挙句意識を失うこともある。今日に限って水分は昼休みに少し飲んで、それきりだ。

「う……」

 最早声も碌に出ない。

「おーい。寝るにはまだ早ぇんじゃねぇの?」

 赤いスニーカーが視界に現れた。刹那、スニーカーの爪先が思い切り笠原の額を蹴り上げた。

 目の前がガクンッと揺れ、頭皮が裂けた痛みに声は喉の奥で砕け散る。そして頭にスニーカーが乗せられ、体重をかけられた。

「あ……ぁ、ぐ」

「しっかしさぁ、何でこんなんで生きてこれた訳? 親、爬虫類かなんかなの? グロいどころのレベルじゃねぇし。俺だったら死にたくなるね」

 ハハハハ。

 コンクリートと靴底に挟まれ、頭蓋骨がメキメキと軋んだ音を上げた。その音すらも、どこか遠くに聞いている。

 死ぬかもしれない。いや、死にたい。死んだ方がマシだ。

 不穏な思いが忍び込んだ。

 ……そうだ。

 結局俺は「人間ではない」し、「気持ち悪い」存在で、「どうしてか生まれてしまった化け物」なのだ。

 嘲笑されて、暴力を振るわれて、踏みにじられて。

 そういう存在なのだと、そんなの分かっていたではないか。誰もが思っていたことを、こうしてこの男たちが言葉にして、行動を起こしただけだ。

 ――今さら、何の希望を持ったんだか。

「どうしたー? 返事がねぇなぁ」

 ぐりぐりと抉るように靴底の角を押しつけられる。

「………」

 何をしても無駄だ。笠原は諦めた。全て。


 諦めた。


 どの道逃げられない。

 このまま俺は死ぬんだ。


 目を閉ざした。――その時、


 ガッシャァーーンッ!

 ドザァアアア‼


 シャッターが吹っ飛び、水が雪崩れ込んできた。

 唖然と動きを止めた一同。水はあっという間に距離を詰めて、笠原たちを飲み込んだ。



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